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すぐに日本酒の燗と、瓶ビール、お通しの切り干し大根とメンマの和え物が運ばれてきて、将継さんは僕のグラスにビールを注いでくれた。
彼は徳利に日本酒を注いで、「乾杯。深月、退院おめでとう」と囁くから、「ま、将継さん、乾杯です。本当に、ありがとうございます」とグイッとビールを煽る。
途端、頭がフワッとするのは、将継さんと恋人になれて、デートのように外で飲める面映ゆさだろうか、何だかそわそわと落ち着かない。
僕の様子に気付いた彼はククッと笑いながら「落ち着かない?」と視線を流してくるから、僕はアルコールの力で開放的になっているのだろうか――。
「何だか……デート、みたいで……恥ずかしいです……」
ぽろりと言葉を滑らせると「私はデートのつもりなんだけど、深月は違う?」なんて瞳を眇めてくるから、真っ赤になってしまう。
お酒を入れていると、将継さんが注文した牛すじ大根、キムチの冷や奴、ハムチーズカツレツ、たたきキュウリの味噌和え、タコの唐揚げ、だし巻き玉子などが次々運ばれてくる。
「はい、深月、あーん?」
だし巻き玉子を箸で摘んだ将継さんがそんなことを言ってくるから僕はびっくりして、「も、もう、風邪治りました!」と俯くと、「風邪ひいてなきゃ駄目?」と彼は眉根を寄せてくるから。
(そんな顔をされたらズルい……)
僕は小さく口を開けて、将継さんの箸から玉子焼きを口に受け止めてゆっくり咀嚼すると、彼は何か愛おしいものを見つめるように僕の様子を窺って「美味い?」と声を掛けてくる。
「……はい、美味しいです」
「なぁ、深月、ワガママ言っていい?」
「ワガママ……ですか?」
キョトンと将継さんを見つめたら、彼は口の端を上げて「深月も私にあーん?してくれる?」なんて言い出すから。
「えっ!? で、でも……」
「いいから、早く」
僕は指が震えるのを自覚しながら、ゆっくりハムチーズカツレツを箸で摘んで将継さんの口元に運ぶと――。
「お待たせしましたー。これ、店長からのサービスです……って、え!?」
バイトの女の子が、今まさに将継さんに「あーん」した瞬間を見て固まりつつも、「もう、長谷川社長、何イチャついてるんですかー」とケタケタ笑うから。
それを聞いた彼は心底可笑しそうにククッと笑った。
「長谷川社長に春が来たんですねぇ。大丈夫。私、口は固いんで安心してイチャついてください! キャー! 美男同士の妄想が捗りますっ」
(なんの妄想だろう!?)
パチッとウィンクして去っていった女の子に、将継さんは「……だそうだ。安心してイチャつけるな?」とニヤニヤと笑った。
「……将継さんの、意地悪」
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