50.今だけ許して、神様【Side:十六夜 深月】

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***       将継(まさつぐ)さんがどんどん熱燗を開けていく中、僕は二本目のビールを半分くらい飲んだところで頭がふわふわと気持ちが良くて。 「深月(みづき)、大丈夫か? そろそろ帰るか?」 「……はい、僕もう、お腹いっぱいだし、飲めません」  そう言って席からふらりと立ち上がると覚束(おぼつか)ない足取りが絡まって、すかさず将継さんが僕を支えてくれる。 「親父(おや)っさん、お勘定いいかな?」  将継さんに支えられながら聞くとはなしにその言葉を耳に入れると、僕は少しだけ冷静な頭を取り戻して「将継さん……ご馳走様です。ありがとう、ございました」と呟くと彼は愛おしそうに僕の頭を撫でて「気にすんな」と笑った。  それを見ていた店主が「長谷川(はせがわ)社長、なんか奥さんと一緒に来てた時みたいだねぇ」と冷やかしてくるから、そわそわしてしまう。 「まぁ、妻のように大切な存在なんだよ」  なんて、臆面(おくめん)もなく言ってのけた将継さんに、僕の胸はちくりと針が刺さったように傷んだ気がしたのは何故だろう。   ***    帰りのタクシーの後部シートで、酔いで朦朧とする頭のまま将継さんの肩に頭を載せてぽやーっとしていたら、彼は突然、バレないように僕の左手を握ってきた。 「深月、これからもこんな風にたくさん出掛けような? 咲江(さきえ)と作れなかった思い出の分まで、深月とはたくさん思い出を作りてぇんだ」  その言葉に、またちくりと胸が傷んだ気がして、僕は将継さんの手を握り返して「奥さん以上に、将継さんのそばに、置いてもらえますか?」なんて、嫉妬心を剥き出しにした言葉を掛けてしまって少しだけ後悔する。  将継さんは何も言わず僕の肩を抱き寄せるから、(困らせちゃったかな……)と思いつつも、お酒が入ったままだった頭は将継さんの肩の温もりでまぶたを開けていられなくなった。 「咲江も深月も、掛け替えのない私の愛しい人だ。咲江の分までそばにいてくれねぇと泣いちまうぞ」  言いながら、緩く頬をつねられた気がしたけれど、僕はもうほこほこと眠りについていた。
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