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ゆっくりまぶたを開けたら、僕は何やら硬い何かの上に頭を預けていたようで、朧気に視線を上げたら慈しむような将継さんの瞳と出会った。
気付けば胡座をかいた将継さんの膝の上に頭を預けて寝そべっていたようで、知らぬうちに僕たちの家のリビングにいて。
「おはよう、深月。飲ませすぎちまったか?」
髪の生え際を掻き分けて梳いてくれている将継さんの指が気持ちよくて、僕は顎をくすぐられた猫みたいに目を細めてしまって、彼の膝の上から身体を起こすことさえ出来ない。
「将継さん、ごめんなさい」
「ん? 何がごめんなさい?」
「僕、将継さんの奥さんに、嫉妬しま、した。僕は、将継さんしか、知らないのに……将継さんには、大切な人がいたんだって……。恋人は……奥さんには勝てない、から……」
言ったら、彼は僕の額に掠めるように口付けた。
何だかそれだけで、涙が出そうになるのは、まだ酔いが醒めていなくて泣き上戸にでもなっているんだろうか。
「確かに……法律上では咲江は私の妻だった。大切な人だ。けど、今は深月がいてくれて、咲江に怒られちまいそうなほど、深月が愛おしくてたまんねぇんだわ。私たちの年の差は埋まらない。どうずっと一緒にいたって私は深月より先にいなくなる。最期の瞬間までそばにいて欲しいのは深月なんだ。深月はそれじゃ嫌? 私以外の人間も知りたい?」
その言葉に、僕は彼の膝の上でゆっくり首を左右に振って、髪を掻き上げてくれている将継さんの手に触れる。
「……僕は、将継さん以外の人なんか、いらない……将継さんに嫌われたら、迷惑かけて嫌って、言われるのが怖い……です。先生のことも、将継さんに凄く迷惑かけてるのがわかってるから……」
と――。
そこで将継さんのスマートフォンが振動したので、僕は彼から身体を起こすと、将継さんは携帯のディスプレイを見て少しだけ困った顔をした。
「将継さん……電話、誰からですか? 出ないん、ですか……?」
「ああ。相良だ。ちょっと込み入った話になりそうだから、また後で折り返す。今は深月との時間を邪魔されたくねぇし?」
(将継さんと相良さん……やっぱり何か危ないことをしようとしてるのかな……)
急に不安になってきて、「将継さん……僕のために……危ないこと、しないでくださいね……?」と言ったら、すぐにフワッと抱きしめられる。
「言ったろ? 深月と最期まで一緒にいるって。深月が心配することは何もねぇから。――でも、そうだな。一つ心配して欲しいことがあるとすりゃあ……」
言って、将継さんは畳の上に僕の身体を組み敷いた。
「深月の貞操の危機かな?」
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