50.今だけ許して、神様【Side:十六夜 深月】

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***    ゆっくりまぶたを開けたら、僕は何やら硬いの上に頭を預けていたようで、朧気に視線を上げたら慈しむような将継(まさつぐ)さんの瞳と出会った。  気付けば胡座(あぐら)をかいた将継さんの膝の上に頭を預けて寝そべっていたようで、知らぬうちにのリビングにいて。 「おはよう、深月(みづき)。飲ませすぎちまったか?」  髪の生え際を掻き分けて()いてくれている将継さんの指が気持ちよくて、僕は顎をくすぐられた猫みたいに目を細めてしまって、彼の膝の上から身体を起こすことさえ出来ない。 「将継さん、ごめんなさい」 「ん? 何がごめんなさい?」 「僕、将継さんの奥さんに、嫉妬しま、した。僕は、将継さんしか、知らないのに……将継さんには、大切な人がいたんだって……。恋人は……奥さんには勝てない、から……」  言ったら、彼は僕の額に掠めるように口付けた。  何だかそれだけで、涙が出そうになるのは、まだ酔いが醒めていなくて泣き上戸にでもなっているんだろうか。 「確かに……法律上では咲江(さきえ)は私の妻だった。大切な人だ。けど、今は深月がいてくれて、咲江に怒られちまいそうなほど、深月が愛おしくてたまんねぇんだわ。私たちの年の差は埋まらない。どうずっと一緒にいたって私は深月より先にいなくなる。最期の瞬間までそばにいて欲しいのは深月なんだ。深月はそれじゃ嫌? 私以外の人間も知りたい?」  その言葉に、僕は彼の膝の上でゆっくり首を左右に振って、髪を掻き上げてくれている将継さんの手に触れる。 「……僕は、将継さん以外の人なんか、いらない……将継さんに嫌われたら、迷惑かけて嫌って、言われるのが怖い……です。先生のことも、将継さんに凄く迷惑かけてるのがわかってるから……」  と――。  そこで将継さんのスマートフォンが振動したので、僕は彼から身体を起こすと、将継さんは携帯のディスプレイを見て少しだけ困った顔をした。 「将継さん……電話、誰からですか? 出ないん、ですか……?」 「ああ。相良(さがら)だ。ちょっと込み入った話になりそうだから、また後で折り返す。今は深月との時間を邪魔されたくねぇし?」 (将継さんと相良さん……やっぱり何か危ないことをしようとしてるのかな……)  急に不安になってきて、「将継さん……僕のために……危ないこと、しないでくださいね……?」と言ったら、すぐにフワッと抱きしめられる。 「言ったろ? 深月と最期まで一緒にいるって。深月が心配することは何もねぇから。――でも、そうだな。一つ心配して欲しいことがあるとすりゃあ……」  言って、将継さんは畳の上に僕の身体を組み敷いた。 「深月の貞操の危機かな?」
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