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翌朝――。
将継さんが焼いてくれたハムエッグとトーストでナマケモノのマグカップでコーヒーを飲みながら一緒に朝食を囲んでいると「――なぁ、深月さ」と将継さんが真剣に僕の顔を見つめてきた。
「はい?」
「今日、深月も私の職場に一緒に来ねぇか?」
その言葉に僕は瞳をパチパチと見開いて「えっ?」と、思わずナマケモノのマグを落としそうになる。
「またさ、仕事から帰ってきたら深月がいなくなってんじゃねぇかって心配なんだわ。武川はもう深月の前に現れねぇけど、家を知られちまってる。深月を一人で置いていくのは心配だし、私も軽くトラウマになっちまってんだ。帰ってきたら深月がいねぇの。会社の奴らには適当に深月のこと紹介するから、一緒に行かねぇか?」
(確かに、将継さんのそばにずっといられたら安心だけど……)
「で、でも、邪魔じゃないですか? 将継さんのお仕事の邪魔します……」
「今日は私は事務仕事をするだけだから、深月はただそばにいてくれりゃーいい。私のためだと思って……駄目?」
僕は将継さんの眉根を寄せて可愛く懇願してくる顔に、つくづく弱いなと思ってしまうのを自覚している。
「じゃ、じゃあ僕、ついていきます。将継さんに、お茶とか出しますね? 邪魔にならないように頑張りますっ!」
言ったら、将継さんは安心したように微笑んで「一緒に暮らして一緒に出勤なんて浮かれちまうな」と、空になった食器を手早く片付けてくれるから、「あっ! 僕も手伝い――」言いかけたら「はい、却下ー」とすぐさま器を取り上げられてしまう。
「……これじゃあ将継さんの専業主婦にも、なれない、じゃないですか……」
ポツンと呟いたら、彼はククッと笑いながら「深月の世話を焼くのが私の趣味なんだから、趣味を奪わねぇーでくんねぇか?」なんて囁かれるから。
「じゃ、じゃあ僕! 無職……」
カクリと項垂れると彼は僕の頭を撫でて、「私はすげぇー幸せ過ぎて死にそうだから気にすんな」と言われてしまえば真っ赤になって俯くしかない。
(ナマケモノくん……僕の恋人はとっても過保護みたい)
思わずマグカップに心の中で語り掛けたら、ナマケモノくんは僕を許すように笑ってくれた気がした。
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