06.餌付け【Side:長谷川 将継】

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「一人だとどうも味気なくて作る気になれないんだけどね。誰かが一緒に食べてくれると思うだけで俄然やる気が出るから不思議だよね」  独り言のようにつぶやけば、深月(みづき)が茶碗を持つ手をビクッと(かす)かに震わせたのが分かった。 「ね。言いたくなかったら言わなくても構わないんだけどさ。……昨夜は何か嫌なことでもあった? 深月、何も食わずに酒だけ飲んでただろ? ああいう飲み方は身体に良くないからね、私には深月が自分をいじめてるように見えてしまったんだ」  そこまで言って深月に視線を投げかけると、私は何でもないことみたいに付け加えた。 「深月も一人で飯を食うのが億劫とかならさ、これからもこんな風に一緒に飯を食わないか? 私はね、飯を作るの自体は嫌いじゃないんだが、一人だと作る気になれないんだよ。今朝は材料がなくてろくなものが作れなかったけど……深月が望むなら割と何でもリクエストに応えてあげられると思うよ?」 「でも……あの……僕、これから……用事があって……。それで、……そろそろお(いとま)しようかと思ってて……」 「だったら用事を済ませてまた戻ってくると良い。もう少し外出に相応しい服を見繕ってあげるから、それを着て出かけるといいよ? ほら、分かってると思うけど深月の服はまだ乾いてないからね。夕方までにはさすがに乾くと思うし、用事を済ませてもう一度ここへ戻ってくる頃にはちょうどいいと思うんだ。私も深月が帰り次第すぐに何か食えるよう飯の用意をして待ってるからさ。──ね? そうしなよ?」  そこまで告げて、今日は仕事が休みだったなと思って。 「深月が、どこだか分かる所まで送って行くから支度が整い次第一緒に出ようか。私もちょっと買い出しに出たいしね。何食いたい?」  車を出すことも可能だが、恐らくは徒歩の方が深月が道を覚えやすいだろう。  そう思った私は、咲江(さきえ)が使っていた合鍵を食器棚の引き出しから取り出すと、深月に差し出した。
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