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下はいつものスキニーパンツのまま、作業服の上着だけを将継さんに借りて職場の事務所につくと、まさに建設会社!という事務所に通されて僕はドキドキしてしまう。
事務所に入ると一人の男性がいて、将継さんは「田村、おはよう。今日はお前だけか?」と声を掛けた。
「あ、社長。おはようございます。はい、今日は大滝さんやら、財間さんもみんな現場に直行で。俺も昼から現場に出るんす。――ってか、社長、彼は?」
僕はコミュ障を発揮しまくって将継さんの背中に隠れていると、将継さんはズイッと僕を前に引き出すから思わず膝が折れそうになってしまう。
「ああ、ちょっと訳あって私が拾った子なんだが……十六夜深月っちゅーんだ。うちも電話番いねぇからさ、また田村に任せるのも悪ぃーから、少しずつ戦力になってくれたらと思ってしばらくそばに置こうと思うんだ。面倒見てやってくれるか?」
田村さん、と呼ばれた男性は「十六夜くん、よろしく。社長にはお世話になってます。俺もまだ新参なんで教えられることは少ないっすけど、よろしくお願いします」と右手を差し出してくるから。
「よ、よろしくお願い、します! その、不束者なのでご迷惑……おかけするかもしれませんが……」
手を握り返したら「石矢の代わりにこんな美青年連れてくるなんて社長の人脈さすがっすねー」と田村さんは屈託なく笑った。
(……え? 石矢さんの代わり……? ……石矢さんは謹慎中のはずじゃ……)
疑問に思ってると将継さんは何か慌てたように「深月はそこの電話の前に座っててな?」と僕を事務デスクに促した。
けれど、電話の前に座ると途端に思考は散ってカチカチに固まってしまって、僕の頭の中はそれどころではなくなった。
***
気付けば時計の針はもう正午を回ろうとしていて、僕は将継さんにお茶を出して、彼の仕事ぶりをぽーっと見つめていたのだけれど。
事務所にはもう誰も人がいなくなってしまっていて、ふと将継さんが「深月と職場で二人なんてイケナイことをしているみたいで興奮しちまうな。そろそろ飯にするか。深月が飯でも構わねぇけど?」なんて喋り出すから僕の頬はぼはっと赤らんだ。
「な、何言って……将継さんのエッチ!」
……と叫んだら彼はククッと喉を鳴らして「冗談」と、まんざら冗談でもない言い方をして来るからドキドキしてしまう。
(もう、将継さんすぐ意地悪するんだから)
と――。
事務所の電話が鳴って僕は盛大に肩を震わせた。
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