50.今だけ許して、神様【Side:十六夜 深月】

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深月(みづき)は、私が不憫な子にしてしまいました。今の……深月の義父と再婚して、虐待の事実があったのに、私は見て見ぬふりをして、夫と別れることも出来ず、まだ十六の深月を実家から出すだけの措置しか取れず、病気にまでさせてしまって……すべて私の責任です。だから、長谷川(はせがわ)さんと出会って初めて幸せだと言ってくれて嬉しくて……」  僕はもう母さんの気持ちは十分過ぎるほどわかっていたから、ただ背を(さす)り続けると、将継(まさつぐ)さんは真剣に口元を引き結んだ。 「お母様の辛いお気持ちもお察しします。簡単にはどうこう出来ない事情があったのだと思います。私は過去の分まで深月くんを幸せにしたいんです。過去の不幸の分まで、深月くんが私のそばにいて幸せだと思ってもらえるように努力します。これからは幸せばかりであれるように。だから――深月くんのことは私に任せてください。お母様の無念は私が晴らします。どうか、安心なさってください」  将継さんの言葉に母さんは肩を震わせて「長谷川さん、本当に……ありがとうございます。深月を預けられるのは……長谷川さんだけです。どうか幸せにしてあげてください。私が出来なかった分まで……よろしくお願いします」と俯いた。 「もちろんです。どうか顔を上げてください。深月くんを、頂いても構わないでしょうか?」  将継さんがそっと右手を差し出して、母さんはそれを両手で縋るように握りしめて「よろしくお願いします」と頭を下げた。 「深月、本当にごめんね? これからは長谷川さんと幸せばかりを掴んでね? 母さんは深月の幸せだけを願ってるから」 「うん。母さん、ありがとう。こういう境遇があったから将継さんと出会えて、今がある。僕は母さんのことを恨んだりしてないから、心配しないで? 将継さんのことを認めてくれてありがとう」  母さんはもうただひたすら涙を流しながら「長谷川さん、よろしくお願いします」と繰り返した。 「お母様、もう涙を拭ってください。深月くんは必ず私が守ります。過去の不幸は、私が必ず忘れさせるつもりです。だからどうか、安心なさってください」  言いながら将継さんは僕に目配せしてきたから、ゆっくり頷いて「母さん、もう大丈夫だよ」と囁いたら、母さんはうわ言のように「ありがとうございます」と将継さんに繰り返した。 「僕は必ず将継さんと幸せになる。だから見守ってて」  過去の暗い影はすべて将継さんが拭ってくれたから、僕はもう前だけ向いて歩いていける、そんな確信とともに将継さんを見つめたら、彼は優しい瞳で頷いてくれた。  けれど、僕はそこで安心して母さんの背を擦ったので、将継さんが表情を曇らせていたことに気付けていなかった――。
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