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「深月のおふくろさん、深月に似た別嬪さんで驚いちまった。やべぇ緊張したー」
母さんが帰って行った後で、将継さんは盛大に安堵したように社長席で机に突っ伏した。
「将継さん、本当にありがとう、ございました……母さんに、あんな風に言ってくれて……。僕、嬉しかったです」
「あんな風も何も全部私の嘘偽りない本心だ。深月のおふくろさんを悲しませないように私が必ず幸せにするからな? ついてきてくれるか?」
コクリ、首を縦に下ろしたら将継さんはちょいちょいと僕を手招きするので、社長席のそばまで近付いたらグッと腕を引かれて、座席に座る将継さんの太腿の上に座らされて後ろから抱きしめられる。
そのまま耳の裏に舌を這わせられたら「ひゃっ!」と声が漏れて、(ま、将継さん本気でお昼ご飯僕にしようとしてる!?)と慌てると、肩に顎が載せられた。
「なぁ、深月。マジで愛してっから、ずっと私のそばにいてくれな? もう誰のところにも行かないでくれな?」
(将継さんってこんなに心配性だったっけ?)
「僕は……どこにも行きません。将継さん、心配、しないで、ください……」
「深月はさ、ふとした拍子に誰かにかっさらわれそうで、私が閉じ込めておかなきゃ心配になっちまうんだわ。過保護で鬱陶しいかもしんねぇーけど、私のそばにいてな?」
「将継さん……僕、母さんが言ってくれたように、幸せばかりを掴めますか?」
言ったら、将継さんは背後からギュッと僕を抱きしめた。
「深月が私のそばにいて幸せって思ってくれんなら、幸せばかりを保証する」
その言葉にとうとう僕の瞳の根っこは緩んで、ぐすり、鼻を啜ったら、「幸せになろうな、深月」と耳孔に甘い声が吹き込まれて身体が震える。
「僕も一生懸命幸せになるから、将継さんが、そばにいてください……僕が幸せになれる場所は……将継さんのそばだけだから」
照れ臭くて小声で喋ったら、将継さんは僕の上半身をくるりと正面に向かせて静かに唇を塞いだ。
ゆっくり、互いの存在を確かめるように触れ合った唇の隙間に、熱の籠った吐息を吹き込まれれば、温かさに綻んだ隙に空気とは違う存在が差し込まれ、味わうように食まれていく。
二人きりの職場でのキスは、なんだかイケナイような気がしたけれど、(今だけ許して、神様)なんて願ったら、あの日存在なんかしてくれなんじゃないかと思った神様は確かに存在してくれていた。
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