51.違和感と失踪【Side:長谷川 将継】

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 私には子供なんていないし、いたとしても母親にはなれっこないから絶対とは言えないが、咲江(さきえ)なら確実にそうするだろうと思った。  なのに未だに我が子へ危害を加えた男との婚姻を継続したまま、あまつさえ今でも一緒に住んでいると言う。  違和感しかねぇんだが?……と思ってしまう私がおかしいんだろうか?  私は割と早くに両親を亡くしているから、自分の母親(おや)に「そう言う場合おふくろならどうする?」と問い掛けることが出来ない。  だが、深月(みづき)の母親と対面していると、妙に落ち着かない気持ちにさせられてしまったのだ。 (――ひょっとして……何か深月には言えない裏事情でもあんのか?)  もし仮に、私が懸念(けねん)したような嫌な母親ではなかった場合。  最低男と別れられない理由でもあるんだろうかと思って。  正当な、とわざわざ思っちまったのにはちゃんとわけがある。  よもや自分の事情――例えば旦那への借金や、旦那にベタ惚れしているから……だなんてクソみたいな根拠を挙げられたら、私はきっと彼女を許せない。  私がそれを彼女に問うた時、離縁せずにいる言い訳は、深月を守るための何かであって欲しい――。  もし仮に何か納得の出来る事情があったとして、深月があの母親と何のわだかまりもなく顔を合わせるために、そのクソ男が家にいるままでは実家に里帰りさせてやることさえままならねぇぞ?……と思ったら、結局のところ苛立ちばかりが募って。  私は、深月が嫌な想いや悲しい気持ちをさせられるのだけは何としても避けたいのだ。
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