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深月には「ちと込み入った仕事の話をしてくるだけだから」と言葉を濁して携帯片手に深月から距離をあけたのだが、あの子だってバカじゃない。
何となく自分に絡んだ電話かも?と察していることだろう。
深月は、案外そう言うところは鋭い子だ。
だからこそ、ガラス越しに深月と目が合うたび、私は話の内容とは関係なく表情を和らげて深月にうなずいてみせている。
シリアスな話をしていようが、不安に駆られるような内容を話題にしていようが、深月に向けている表情だけは曇らせるわけにはいかないのだ。
「石矢が行きそうな場所に心当たりは?」
私の問いかけに、相良が寸の間黙って。
『あいつは……お前が窮地に立たされてる現状を知ってる』
ややしてそうつぶやいた。
「は?」
そう言えば、相良は武川に制裁を加えた日、運転手を務めていた石矢に、『テメェは今日、自分が何でここへ連れてこられたか、分かったよな?』とか何とか言ってなかったか?
あのとき私はどういう意味だ?と問い掛けようとしたのだが、相良は『いずれ久留米ってヤローと対峙すりゃぁ分かる』だの何だの言って誤魔化したんだったよな?
「私が脅されていることと、石矢の失踪には関連性があるって……お前は考えてんだな?」
一語一語確かめるように問い掛けたら、相良が『長谷川と話してたらそんな気がしてきただけだ。お前はそこまで感じてねぇかも知んねぇけど……あいつ、お前のことが大好きだからな』と電話口でふっと笑った。
とすれば――。
「なぁ相良。お前、石矢は〝いい感じに育ってる〟って言ったよな?」
私の言葉に、相良が『ああ、言ったな。そこんトコは組の威信をかけて太鼓判捺してやるよ』とどこか凄みのある声で答える。
「だったら……石矢のやつはきっと……」
石矢が行く場所は、深月の通っていた病院――もっと言うと久留米のところしかないんじゃねぇか?
そう思った。
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