51.違和感と失踪【Side:長谷川 将継】

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 深月(みづき)には「ちと込み入った仕事の話をしてくるだけだから」と言葉を濁して携帯片手に深月から距離をあけたのだが、あの子だってバカじゃない。  何となく自分に絡んだ電話かも?と察していることだろう。  深月は、案外そう言うところは鋭い子だ。  だからこそ、ガラス越しに深月と目が合うたび、私は話の内容とは関係なく表情を(やわ)らげて深月にうなずいてみせている。  シリアスな話をしていようが、不安に駆られるような内容を話題にしていようが、深月に向けている表情だけは曇らせるわけにはいかないのだ。 「石矢(いしや)が行きそうな場所に心当たりは?」  私の問いかけに、相良(さがら)が寸の間黙って。 『あいつは……お前が窮地(きゅうち)に立たされてる現状を知ってる』  ややしてそうつぶやいた。 「は?」  そう言えば、相良は武川(たけかわ)に制裁を加えた日、運転手を務めていた石矢に、『テメェは今日、自分が何でここへ連れてこられたか、分かったよな?』とか何とか言ってなかったか?  あのとき私はどういう意味だ?と問い掛けようとしたのだが、相良は『いずれ久留米(くるめ)ってヤローと対峙(たいじ)すりゃぁ分かる』だの何だの言って誤魔化したんだったよな? 「私が(おど)されていることと、石矢の失踪には関連性があるって……お前は考えてんだな?」  一語一語確かめるように問い掛けたら、相良が『長谷川(はせがわ)と話してたらそんな気がしてきただけだ。お前はそこまで感じてねぇかも知んねぇけど……あいつ、お前のことが大好きだからな』と電話口でふっと笑った。  とすれば――。 「なぁ相良。お前、石矢は〝いい感じに育ってる〟って言ったよな?」  私の言葉に、相良が『ああ、言ったな。そこんトコは(うち)の威信をかけて太鼓判()してやるよ』とどこか凄みのある声で答える。 「だったら……石矢のやつはきっと……」  石矢が行く場所は、深月の通っていた病院――もっと言うと久留米のところしかないんじゃねぇか?  そう思った。
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