671人が本棚に入れています
本棚に追加
/370ページ
卵や玉ねぎ、鶏もも肉やピーマンなど、オムライスの材料を抱えて将継さんの元に戻ると、彼はもう電話を終えていて何事かを考えている様子だった。
「……将継さん?」
「――あ、ああ……深月。オムライスの材料取ってきてくれたのか? サンキューな。これ、電話。終わったから」
言って、将継さんは僕の携帯を返してくれたので、「母さん、何か、言ってましたか?」と笑顔で訊ねると、彼はまた僕の頭を撫でて微笑んだ。
「ああ。会社では最小限の話しか出来なかったから、また改めて、深月には思い出して欲しくない昔のことをちゃんと説明したいっちゅー話でな。私と二人で会いたいそうだ。おふくろさん深月想いだな。週末にでも会えたらと思ってる」
「じゃ、じゃあ、家に招いたら、駄目ですか? 僕は話を聞かないように……別の部屋にいます。将継さんと僕の家、母さんにも見てもらって、ちゃんと安心して欲しいから……」
僕の言葉に将継さんは少し間を置いて「――ああ、そうだな。深月の新しい家、おふくろさんにも見てもらわねぇとな」と笑った。
「はい! ちゃんと恋人……になって、無事に将継さんの家に引っ越したって、安心して欲しいです。母さん、きっと僕のこと、心配してくれてると思うから……。母さんが実家から逃してくれなかったら、僕、将継さんにも、会えませんでしたし……親孝行、したいです。将継さんにも、恩返し、したいけど、母さんにも恩返ししたいんです。早く、自分で稼げるようになります」
「深月が外に出るのは駄ー目。私が過保護に鬱陶しく離さねぇって言ったろ?」
(僕に出来ることが何もない……)
「じゃ、じゃあ僕……相良さんのこととか……一緒に共有、させてください……。僕、仲間はずれは嫌です……」
わずかに眉宇を寄せて唇を尖らせると、将継さんは「そこは大人の事情だから、深月にはもう少し話がまとまったらちゃんと説明する。仲間はずれなんかにさせねぇーから安心しろ」と耳孔で甘く囁いた。
途端、びくんと身体が震えて、ここがスーパーだということも忘れて僕は将継さんの温もりを求めてしまうから(結構重症かも……)と思いつつ、その言葉を胸にストンと落とし込んだ。
「じゃ、じゃあ僕! 帰ったらオムライスの卵を焼きます!」
「それも駄ー目。また怪我されちゃあ困る」
その言葉に、カクリと項垂れたら、「深月にはさ、私のそばで必ず幸せになって欲しい。そのために私が出来ることなら何でもやってやりてぇーんだ。だから、もう少し大人の事情を待ってくれな?」と微笑むから。
大人の事情にはまだ入れないのかもしれないけれど、僕もちゃんと立派な大人になって、将継さんのそばで幸せばかりが続くんだって信じて疑っていなかった。
この時は――。
最初のコメントを投稿しよう!