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ふふっと電話口から媚びたような女の吐息が伝わってくるようで、私は思わず手にしていた携帯を耳から少し離さずにはいられなかった。
「それは……どういう意味でしょうか?」
『私だって一応あの子の母親です。深月のことを好んで傷つけたいわけじゃありませんの。――こう言えば少しはご理解頂けますか?』
要するに、深月を傷つけるようなことを私に話したいと言うわけか。
そう思った私は、小さく吐息を落として「それは……深月のためになる話ですか?」と声を低める。
『もちろん! あの子のためになる、必要なお話に決まっています。――そういうわけで将継さん、貴方の携帯番号を教えて頂けます?』
「……分かりました」
私は自分の携帯番号を伝えて電話を切った。
(私と二人きりで話したいなんて……絶対ろくな話じゃねぇな)
眉間にしわが寄りそうになるのを何とかこらえると、私はオムライスの材料をかごに入れて戻って来た深月を、極上の笑顔で出迎える。
私めがけて小走りに駆けてくる深月の姿は、まるで子犬みたいに愛らしくて……胸がキュッと締め付けられるように愛しさがこみ上げてきた。
(絶対深月に悲しい思いだけはさせらんねぇな)
そう思った私は、息子想いの優しい母親からの電話を受けたように取り繕いながら、深月の手から買い物かごを受け取って、代わりに通話を終了したばかりの携帯電話を手渡した。
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