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「――でな、相良。急で悪いんだが明日。ちぃーと深月の面倒を見てやって欲しいんだわ」
電話番号を伝えたからだろう。
あのあとすぐに十六夜華月からショートメッセージがきて、早速明日、会いたいと打診された。
明日は土曜でうちの社が休みだというのをウェブサイトを調べでもして知ったんだろう。
深月と水入らずの休日を潰されるのは癪に障ったが、深月にそれとなくお伺いを立てたら嬉しそうに微笑むから、私は彼女にOKな旨を打診したのだ。
深月からのたっての希望でうちへ呼ぶことになったが、何となくひとつ屋根の下に深月がいる状態で、あの女の話を聞くのは得策ではない気がして――。
だからと言って、一人でどこかへ使いに出すのは不安だと感じた私は、悩んだ末に相良へ電話を掛けたのだ。
『なぁ長谷川よ。俺、そんな暇じゃねぇんだけど』
葛西組の若頭を張っている相良が暇じゃないことぐらい、先刻承知の上だ。
それでも私には彼を頼る以外の方法が見出せないのだから仕方がないではないか。
「けどお前、前に言ったよな? 何かあったら遠慮なく頼れって」
『うわー、それを今言ってくるとか。性格悪ぃーぞ、長谷川』
ぶつくさ言いながらも、相良が私の頼みを断ることはないと言うのが分かるから。
私は「すまんな。石矢のこともあんのに」と、わざとしおらしい態度を取ってみせる。
『あー。それはこっちの落ち度だ。……長谷川は気にしなくていい』
相良は石矢に持たせている携帯のGPSをたどれるようにしていたらしいのだが、どうもあいつ、それを見越してスマホの電源を落としているらしい。
その状態でどこかに潜伏しているらしく、葛西組の情報網にすら引っかかって来ないのだと言う。
『誰か匿ってる人間でもいんのかねぇ?』
そんな相手、いそうにねぇんだけどな……と続けながら吐息を落とす相良に、私もつられたように溜め息をついた。
『ま、それはそれ。これはこれだ。深月ちゃんのこったからうちの若いもんつけるって言っても脅えちまうだろ?』
「ああ」
だからこそ、少しとはいえ面識のある相良に、私は深月の護衛を頼みたいのだ。
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