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『しゃーねぇなぁ。まぁーた千崎にネチネチ言われちまうだろうけど……長谷川の頼みだ。相良京介、お前のために一肌脱ごうじゃねぇか』
千崎というのは相良の補佐役兼お目付け役の男のことだ。
「すまんな、相良。今度、千崎さんには私からもちゃんと礼をする」
『――だとよ、千崎』
ククッという笑い声とともに、そんなことを相良が言うから。恐らくそばに千崎雄二がいるのだろう。
「千崎さんがそこにいるんなら、ちぃーと代わってくれるか?」
頼んだら、ガサガサッという物音の後、すぐさま『もしもし』と相良より落ち着いた、渋みのある年配の男の声が通話口を震わせた。
「申し訳ありません、千崎さん。明日数時間だけ。お宅の若頭の時間を私に下さい」
見えないのは分かっていても自然携帯片手に頭を垂れずにはいられない。
そんな私に、『カシラは私が止めても言うことを聞くようなタマじゃありません。長谷川さん、今度どうしても困ったときは、一声お口添えを頂けますか? それで今回の件はチャラにしましょう』と千崎さんが譲歩してくれて。
本当ならば私の手なんて借りなくても相良の尻を叩くことは出来るだろうに、有難いな……と思いながら、私は「もちろんです」と答えて通話を終えた。
***
相良にはたまたまを装って、十六夜華月が我が家に来ているタイミングでうちを訪問してもらうことにした。
相良は基本、自由人。深月にとっても神出鬼没なイメージがある男だろうから、不自然さは与えないはずだ。
深月には、突然やって来た相良の相手をしてもらいながら、適当な理由を付けて相良とともにちょっと買い出しにでも出てもらおうと思っている。
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