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54.真実【Side:十六夜 深月】
「でね、母さん。ここが僕の部屋で隣りが将継さんの部屋なんだ」
将継さんがお茶を淹れてくれている間、僕は母さんに自分の部屋を案内して、衣類などもきっちりアパートから持ってきて無事に引越しが終わったのだと伝えると、母さんは嬉しそうに笑った。
「そう、深月よかったわね。長谷川さんと同じ部屋じゃないの?」
その言葉に途端、僕の頬は真っ赤に染まって「な、何言ってんの! 母さん! 別々に決まってるじゃん!」と(確かに一緒の部屋で眠ることもあるけれど……)と思いつつ早口にまくし立てた。
と――。
そこで家のインターホンが鳴って。
将継さんはキッチンにいるから、僕は「母さん、ちょっと待ってて」と言い残し、リビングを通り抜けて渡り廊下を歩き玄関へ向かった。
「……は、はい!」
鍵を開けながら玄関の引き戸を引くと、そこには相良さんが立っていて、僕は目を瞬かせてしまった。
「さ、相良さん……? どうしたん、ですか?」
「深月ちゃん久しぶり。その後体調どうよ? ちぃーと長谷川に野暮用があって来たんだが、アイツいる?」
「は、はい。お陰様で風邪は治りました。ありがとう、ございます。……将継さん、呼んできますね?」
(母さんも来てるけど……将継さんと相良さん先生の話かな? バッティングしちゃったけど大丈夫かな……?)
僕はてとてととキッチンへ向かい、「将継さん」と声を掛けると「今インターホンの音が聴こえたけど誰か来たのか?」と優しく微笑んでくれる。
「は、はい。相良さんが来てます。将継さんに、用があるって」
言ったら、将継さんは「ちょーどよかった。ちぃーと深月に頼みたいことがあんだけど、一人で行かせんのは不安でな。相良に護衛を頼むか」とポンと手を打った。
「頼みたいこと、ですか?」
「ああ。深月のおふくろさん急に来ることになっちまったから茶請けがねぇーんだわ。悪ぃーんだけど、『山茶花』まで行って羊羹でも買ってきてくんねぇか?」
『山茶花』はここから徒歩で片道三十分くらいの場所にある老舗和菓子屋さんで、僕でも知っている大きな栗がゴロゴロ包まれた栗蒸し羊羹が名物のお店だ。
「は、はい! 僕、行ってきます! 母さんのために、わざわざありがとう、ございます」
にっこり微笑んだら、将継さんは掠めるように唇を啄んで、「全部終わったら、二人でゆっくり過ごそうな?」と片目を閉じるから、僕は夢見心地になってしまった。
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