54.真実【Side:十六夜 深月】

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 母さんをリビングの座卓の前に座らせてお茶を出し、「お母さん、少しお待ちください」と言った将継(まさつぐ)さんは、僕を伴って玄関へと一緒に連れ立った。 「相良(さがら)(わり)ぃーんだけどさ、深月(みづき)を 『山茶花(さざんか)』まで連れてってやってくんねぇーか?」 「いきなりパシリかよ。ま、長谷川(はせがわ)の頼みとあっちゃぁ仕方ねぇな。――ただ、俺と深月ちゃん二人っきりにしていいわけ? 喰っちまうかもしれねぇぞ?」  ククッと笑った相良さんに、将継さんは「そりゃー困るな。私ですらまだ全部喰ってねぇんだから」なんて真顔で答えるから、僕は恥ずかしくて身の置き所がなくなった。 「冗談に決まってんだろ。お前の大切なお姫様に手なんか出すかよ。生憎(あいにく)まだ死ぬわけにゃぁいかねぇかんな」 「あ、深月。これ羊羹(ようかん)代」  言いながら、将継さんは僕の手に一万円札を握り込ませてくるから、慌てて「よ、羊羹代くらい僕出せます!」と固辞すると、将継さんは僕の頭を撫でて頬に口付けた。 「深月には一銭も使わせたくねぇの。相良と二人はちぃーとキツイかもしんねぇけど頼むな?」 「……おいおい。人前でイチャついた上に俺と二人がキツイってなんだよ? 深月ちゃん。こんな色ボケバカ放っといて俺とデートしような?」 「……は、はい! 将継さん。本当にありがとうございます。行って、きますね?」 *** 「深月ちゃんさぁー、アイツのどこに惚れてんの?」  道すがら(相良さんと二人、やっぱり緊張するかも……)とドキドキしていると、相良さんは唐突にそんなことを訊ねてきた。 「……ぜ、全部です。優しいところも、僕のこと一番に考えてくれるところも……僕のこと変えてくれたのも……全部、将継さんなんです……」 僕の返事に相良さんは慈しむような視線を流してくるから、何だか妙に恥ずかしくなってしまったけれど、彼は「そっか」と満足気に笑った。  そこで僕は、はたとポケットの中の違和感に気が付いて。 「さ、相良さん……すみません。僕、スマホ忘れて来ちゃったみたいです……。ちょっと戻って、取ってくるので……待っててもらっていいですか?」 「ちょっ! 深月ちゃん待った! 一緒に取りに戻ろう!? 一人で戻るのは危ねぇって!」 「だ、大丈夫です! すぐ戻りますっ! ちょっと行ってきます!」  相良さんが何か酷く慌てた様子だったけれど、僕はもう小走りに駆け出していた。 ***  玄関を開けて、確かリビングの座卓の上に放置してきたような気がするスマートフォンを取りに行こうと、将継さんと母さんが話し中なのでそろりそろりと近付く。  と――。  わずかに薄く開いていた(ふすま)から母さんの声が聴こえた。 「――で、。深月をいくらで買って頂けますか?」 (……え?)
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