672人が本棚に入れています
本棚に追加
/369ページ
俺に対する恐怖心をあおるみたいで申し訳ないとは思うが、こういう言い方をすれば深月さんが社長の家で俺に暴行れたことを思い出して、大人しくこっちの提案に従わざるを得なくなると踏んでのことだ。
俺の言葉に慌てたようにフルフルと首を横に振って、『部屋に二人きりはイヤです……!』と意思表示をする深月さんを見遣りながら、俺はあえて自分が久留米にやろうとしていたことは明かさずに、深月さんをアパート以外の場所へ誘導することに成功した。
***
俺は葛西組では新参者だ。
組織に組み込まれた経緯だって元々は自分から望んでのことじゃない。
そのため、俺が相良から信頼され切っていないことは知っていたし、その絡みで携帯のGPSを見張られているのは知っていた。
だから俺は姿を消したことがバレる前に、久留米へ連絡を取ったのを最後に携帯の電源を落としていた。
久留米には長谷川社長に裏切られて酷い目に遭ったなどともっともらしい理由を付けて、仕返しのためアンタに協力したいと持ち掛けたら、真実を織り交ぜて話しただけあって説得力があったんだろう。
カウンセラーの癖に笑っちまうくらいアッサリと、俺の口車に乗ってきやがった。
きっとヤツも武川と音信不通になったことで何かあったと察した上で、それでも深月さんをどうにかして手に入れたくて焦っているんだろう。
久留米には今日、深月さんがアパートに一人で荷物を取りに戻るみたいだと嘘の情報を流しておびき寄せる手配がしてあって。
今日はそのためにわざわざアパートのドアを開錠した状態で深月さんの部屋の中、息を殺して久留米を待ち伏せしていたのだ。
けど、まさかそんな日に本当に深月さんが戻ってくるなんて思わねぇだろ。
最初のコメントを投稿しよう!