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「濡れたままの服は気持ち悪ーと思いますが、ホットコーヒー頼んだんで、ひとまずそれで身体、温めてください」
さっき深月さんを捕まえたホテル近くにあって、たまたま目についた喫茶店に深月さんを引きずるようにして連れ込んだ俺は、ギュッと縮こまったままの深月さんに、勝手とは思いつつホットコーヒーを注文した。
もしかしたら深月さんはブラックは飲めないかも知れないが、そこはまぁ砂糖やミルクで好みの味にしてもらえばいい。
さっきからポケットに突っ込んだままのスマホがしつこいくらいに着信を知らせて震えているけれど、深月さんの前でそれに応答したら今度こそ全力で逃げられてしまいそうな気がして……。
本当はすぐにでも出てこの場所を告げたいのをグッと我慢して、俺はそれを無視し続けた。
電話になんて出なくたって、カシラがここにたどり着くのは時間の問題だと信じている。
今はとりあえず、深月さんを逃がさないことに全力を注ごう。
そう思って、テーブル席の癖に不自然に横並びに深月さんの隣へ陣取って、彼を壁とテーブルと自分の身体で逃がさないように閉じ込めた状態で、俺は小さく吐息を落とした。
席についてもなお掴んだままの深月さんの手は、大事を取ってまだ離さない方がいいだろう。
店内のあちこちから、そんな奇異な状態の俺たちをチラチラと窺い見る視線を感じるけれど、俺はそれを素知らぬ顔で黙殺した。
(カシラでも長谷川社長でもいいんで早く来て下さい)
そんなことを思いながら――。
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