56.プレゼント【Side:十六夜 深月】

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***     タクシーに乗って家へ辿り着くと、将継(まさつぐ)さんは何も聞かずにすぐにお風呂の準備をしてくれて、入浴を済ませると、僕は意を決して将継さんのいるリビングに向かった。 「将継さん……」 「深月(みづき)、ちゃんと(あった)まったか? また風邪ひいちまったら大変だ。夕飯(ゆうめし)、有り合わせだけど作ってある。――けど、まずは話そうか」 (ちゃんと、向き合わなきゃ……)   コクリと頷いて将継さんの隣りに腰掛けて、「将継さん……母さんは?」と訊ねると、彼は僕の肩を抱き寄せた。 「深月が飛び出しちまって話どころじゃなくなったかんな。とりあえず、相良(さがら)が組の(もん)に命じて車で家まで送り届けさせた。アイツ、いつも運転手付きの車に乗ってるからな。――深月も……おふくろさんとのことはすぐには気持ちの整理がつかないと思う。ただ……」  そこで将継さんは僕の額にコツンと額をぶつけてきた。 (痛っ!)  「痛かったか? 今のは私の怒ってんだぞって気持ちだ。――知らない男とホテルに行こうとしたってどういうことだ?」 「ごめんなさい……僕……母さんがあんなことしたのは、僕が将継さんに近付いてたのも……母さんと結託してお金目当てだって、思われたと思って……。嫌われたと思って……。そしたらその人が、僕のこと、壊してくれるって言ってきて……母さんにとって役立たずで、将継さんにも失望されて……もう全部壊れちゃえって思って……そしたらもう、何も考えなくて済むって思って……身体が、汚れたら……将継さんのことも吹っ切れるって思った、けど……やっぱり将継さんに会ったら、将継さんのことばっかで……」  言ったら、後頭部を掻き抱かれて唇を塞がれ、物欲しげに(ほころ)んだ口腔の中に差し込まれてきた舌はいつになく荒々しくて、息が詰まりそうで一瞬意識が遠くなりかけたけれど怖くはなくて。   (まさぐ)られる後頭部の髪はぼさぼさで、けれどそんなことを気にしている余裕すらないほどキスは深く、胸が詰まるような、泣きたくなるような口付けだった。 「……ふ、ぁ」   思わず小さく()せたら、唇が離れて背中をトントンと叩かれ、ぺたりと彼の胸に懐かされて優しく頬に唇を押し当てられる。 「愛してる」  その言葉は何の解決にもならないのに、僕を甘い想いで包み込んでくれるようで、胸の中をじわじわと温めてくれた。
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