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タクシーに乗って家へ辿り着くと、将継さんは何も聞かずにすぐにお風呂の準備をしてくれて、入浴を済ませると、僕は意を決して将継さんのいるリビングに向かった。
「将継さん……」
「深月、ちゃんと温まったか? また風邪ひいちまったら大変だ。夕飯、有り合わせだけど作ってある。――けど、まずは話そうか」
(ちゃんと、向き合わなきゃ……)
コクリと頷いて将継さんの隣りに腰掛けて、「将継さん……母さんは?」と訊ねると、彼は僕の肩を抱き寄せた。
「深月が飛び出しちまって話どころじゃなくなったかんな。とりあえず、相良が組の者に命じて車で家まで送り届けさせた。アイツ、いつも運転手付きの車に乗ってるからな。――深月も……おふくろさんとのことはすぐには気持ちの整理がつかないと思う。ただ……」
そこで将継さんは僕の額にコツンと額をぶつけてきた。
(痛っ!)
「痛かったか? 今のは私の怒ってんだぞって気持ちだ。――知らない男とホテルに行こうとしたってどういうことだ?」
「ごめんなさい……僕……母さんがあんなことしたのは、僕が将継さんに近付いてたのも……母さんと結託してお金目当てだって、思われたと思って……。嫌われたと思って……。そしたらその人が、僕のこと、壊してくれるって言ってきて……母さんにとって役立たずで、将継さんにも失望されて……もう全部壊れちゃえって思って……そしたらもう、何も考えなくて済むって思って……身体が、汚れたら……将継さんのことも吹っ切れるって思った、けど……やっぱり将継さんに会ったら、将継さんのことばっかで……」
言ったら、後頭部を掻き抱かれて唇を塞がれ、物欲しげに綻んだ口腔の中に差し込まれてきた舌はいつになく荒々しくて、息が詰まりそうで一瞬意識が遠くなりかけたけれど怖くはなくて。
弄られる後頭部の髪はぼさぼさで、けれどそんなことを気にしている余裕すらないほどキスは深く、胸が詰まるような、泣きたくなるような口付けだった。
「……ふ、ぁ」
思わず小さく咽せたら、唇が離れて背中をトントンと叩かれ、ぺたりと彼の胸に懐かされて優しく頬に唇を押し当てられる。
「愛してる」
その言葉は何の解決にもならないのに、僕を甘い想いで包み込んでくれるようで、胸の中をじわじわと温めてくれた。
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