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「深月はさ、恋人って初めてだからわかんねぇーかもしんねぇけど、恋人ってさ……恋人になりました、ハイ、めでたしめでたしじゃねぇんだわ。付き合ってたら、色んな障害も出てくる。今回みたいに、おふくろさんのようなことだって起きるし、この先、深月が私にムカついてもう別れたいって言い出すかもしんねぇ」
「……ぼ、僕、将継さんにムカつくことなんてっ」
「たとえば、の話な? とにかく、付き合ってたらこの先も色んな問題は出てくる。深月が拗ねてケンカになるかもしんねぇし?」
「ぼ、僕、拗ねません!」
ククッと笑った将継さんはそのまま続けた。
「おふくろさんのことは深月にとってはすげぇショックだったと思う。でも私がおふくろさんに言った言葉に嘘はひとつもない。生涯を賭けて守り抜く。だからもちっと私を信じてくんねぇかな? そんな簡単に深月を疑ったり嫌いになったりするわけねぇだろ? 深月が私を嫌っても私は執念深いって言わなかったか?」
キュッと鼻をつままれて言われた言葉に、思わず鼻の奥がツンと傷んで眼に水滴を溜め始めると、将継さんは頬に伝う前に僕の目元を拭った。
「僕は……どうしたらいいですか?」
「おふくろさんが深月の身代金を求めてくんなら、私は金に糸目をつけるつもりはねぇよ? 金なんかよりよっぽど大切だから。――けどな。辛いけど、深月のおふくろさんは深月を大切にしてるとは、悪ぃーんだけど到底思えねぇんだわ。金で解決なんて馬鹿げてる。深月を道具みたいに扱って……正直許せなかった」
確かに僕は母さんにとってお金を作るための道具でしかなかったことは、今回の件ではっきりわかってしまった。
(母さんにとって僕は役立たず……)
「母さんは……義父と再婚するまでは……一生懸命僕を育ててくれました。今だって、そのことは、感謝してます。でも……あんなことを言われて悲しかった。もう、どうやって接すればいいのか、わからない……将継さんがそばにいてくれるなら、その方が嬉しい……です。今の僕の中の天秤、将継さんにずっと傾いてるから……親不孝だけど……それが事実だから……」
恋愛という幸いに僕を溺れさせてくれた彼が、愛おしくて愛おしくて仕方がない――これが、いま僕の中に確かに渦巻く感情で。
それ以外は、何もいらない。
盲目だとしても、構わない。
(将継さんが愛おしい)
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