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「どんな男性?」
言いながら、ガラステーブル越し、そっと身を乗り出してきた先生が僕の手の甲に、手の平を重ねてきた。
(え? 久留米先生……?)
「どんな男性なのか知りたいな?」
先生の手が重ねられた手の甲が心臓にでもなってしまったかのように、ドキドキと脈打っているのがわかる。
ただ一つ不思議なのは、長谷川さんの手のような温かさは感じられないということだ。
(これは……もしかして、あの夢の続き……なわけないよね?)
「えっと……なんだか凄く僕を引っ張ってくれる人で……。三十八歳の男性なんですけど……歳上の……怖い対象なんですけど……でも、僕のこと、深月って呼んでくれて、それから、手が凄くあったかいんです……。こんなの初めてで……」
久留米先生が僕の手の甲を握りしめながら、「今日の服装の雰囲気が違うのも彼のもの?」と訊いてきたので、コクリと頷く。
「大丈夫? 深月くんは深いトラウマがあるんだから、そういうことは慎重にならないといけないよ? 何かあってからじゃ先生が困る。深月くんは僕の大切な患者だから、先生心配だな」
僕も、安心しているわけじゃない。
だけど──。
大事な合鍵を預けてくれて、僕にまた戻ってきて欲しいと言ってくれた彼──長谷川さんとの出会いが、空っぽな毎日に何か、よくわからないけれど何か一滴の雫が落ちてきたように波紋が広がった気がして。
この十年近く、埋まらない孤独みたいなものを抱えて生きてきた僕が、少し勇気を出してみてもいいんじゃないかと思っていて。
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