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58.アイツ【Side:十六夜 深月】
将継さんが相良さんに、〝母さんを助けるのが最優先事項だ〟と電話してくれたけれど――。
(僕はどうしたらいいんだろう?)
「将継さん……僕に何か、出来ることはありますか? 母さんは、どこにいるか、わかりますか? 僕、助けに――」
言い終わる前に唇を啄まれて頭を撫でられるけれど、気持ちばかりが急いてしまって、オロオロと将継さんを見つめてしまう。
「深月。気持ちはわかるけどな、まだおふくろさんがどこにいるかは相良も捜索中だ。それよりも今は私のそばから離れないで欲しい。約束。――な?」
「じゃ、じゃあ警察、警察とかに通報……」
「それはもう深月の義父さんがしてるらしいから。深月は警察には行かない方がいい。下手に鉢合わせても辛いだけだろ?」
確かに僕はもう義父の顔すら見たくないし、警察署で一緒になったらどうすればいいのかもわからない。
「……でも、母さんの血が……先生、母さんを殺したり、しませんよね……?」
先程、母さんからは信じたくない言葉をたくさん聞いてしまって、母さんよりも将継さんのそばにいることを選ぼうとしていたけれど、さすがに死んで欲しいだなんて思えない。
(母さんが一人で僕を育ててくれたのは事実なんだから……義父と再婚して僕は邪魔者になったのかもしれないけど……)
「殺すことはないはずだ。深月を怖がらせたいだけだと思う。相良の話だと今の先生はちょっとばかり普通の状態じゃないみたいでな。そんなところに深月が出くわしたら何をされるかわからないだろ?」
そこで将継さんにじっと見詰められた僕は、ちいさくうなずいた。
将継さんはそんな僕の頭をポンポンと優しく撫でると、優しく相好を崩す。
「だから、今晩は絶対に一人で何かしようとしないこと。私のそばから離れるの禁止な? おふくろさんのことは心配だろうけど……いま私たちに出来ることは相良からの連絡を待つことだけだ」
「でも……」
「大丈夫。相良たちはきっと警察よりも動きは早い。眠れないかもしんねぇけど……相良から連絡が来た時に備えて今日は休もう。――な?」
将継さんはギュッと僕を優しく抱きしめると、
「ほら、私の部屋においで? 一緒に寝よう?」
そう言って笑ってくれた。
そのまま将継さんに腕を引かれて彼の部屋に誘われた僕が一緒の布団に包まると、将継さんが当然のようにそっと抱きしめてくれるから、僕は思わず胸元にギュッと抱きついた。
「将継さん……こんな時でも、僕は母さんの役に立てない……」
「深月があんなことを言われても心配してるだけで、十分役に立ってる。おふくろさんにも気持ちが伝わるといいな?」
そっと呟かれた言葉にゆっくり頷くと、将継さんの腕の中、目を閉じたらまなじりから雫が伝ったけれど、僕は静かに寝たフリをした。
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