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リビングに戻ると、将継さんは僕を正面に座らせて「深月は私を騙そうとしたのか?」と問いかけてくる。
「……はい。ごめんなさい。どうしても、母さんのことが、気になって……僕……」
「今がどういう状況か深月もわかってるよな? 片時も私のそばから離れるなって言ったろ? 何かあってからじゃ取り返しがつかないんだからな? ――わかるか?」
「……ごめんなさい。一人で勝手に、行動しようとして……将継さん、怒ってますよね……嫌いに、なりましたか?」
恐る恐る瞳を覗き込むと将継さんは僕の頭をふんわりと撫でて、「あのなぁ……」と呆れた声を出すからギュッと目を瞑って、次に襲い来るであろう『嫌い』の衝撃に備える。
「嫌いなら怒るか? 嫌いなら引き止めたりするか? 深月が好きだから自分を大切にして欲しいんだ」
「好き……ですか?」
「好きじゃなきゃ怒らない。そんなにおふくろさんに会いたいんだったら、もっとハッキリちゃんと言うこと。深月の気持ち尊重するに決まってるだろ?」
思わず瞳を滲ませると将継さんは僕をそっと抱きしめて「悪かった。そりゃ心配だよな。私と一緒に行こうな? 一人で行くのは絶対に駄目」と、背中をトントンと叩かれるから、僕もそっと将継さんの背に腕を回す。
「……ありがとう、ございます。将継さん……心配してくれて……」
「当たり前だろ」
ニッと笑った将継さんに僕も笑みを返した。
***
すぐに車を出してくれた将継さんと一緒に病院に到着し、母さんの病室の前までたどり着くと、彼はその場で足を止めた。
「私はここで待ってるから。深月一人で行っておいで? 私がいたら話しにくいだろ?」
「は、はい。……ありがとう、ございます。ちょっとだけ話したらすぐ戻ります……」
いくら心配とはいえ昨日の一件もあるし、僕は少しだけ深呼吸してから、ゆっくり母さんの病室の扉を開けると――。
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