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「僕は……こんな風に誰かに親切にしてもらったこと、先生以外なくって……。だから、ちょっと怖いけど……もう少し、ちゃんとお礼がしたいなって思うんです。これは、間違っていますか……?」
先生が、僕の手を離して困ったように微笑んだ。
「間違いではないよ? ただ、深月くんも自覚していると思うけれどキミはその容姿だ。親切そうに見える相手だって、いつ豹変するかわからないってことも自覚して? 絶対に危ないことにはならないこと、何かあったらすぐに先生に連絡すること、これだけ約束してくれる?」
(やっぱり……先生は優しすぎる。そんなこと言われたら、どんどん好きになっちゃうよ……)
先生に触れられていた手の甲がまだじくじくと脈打っていて、それを隠したいみたいに手を組んでみる。
「はい、わかっています。僕、出来るかわからないけれど、今回のことは、ちゃんとお礼がしたいんです」
先生が、ふぅっと一つ溜め息を吐いた。
「一応訊いておくけれど、その男性に性的興奮を覚えただなんてことはないよね?」
(長谷川さんに性的興奮!?)
先生は一体何を言っているんだろう。
何だかいつもと様子が違う先生に、どうしてしまったんだろうとソワソワしてしまう。
「そ、そんなのあるはずないです! だって僕は……」
(先生のことが好きなんです……なんて、言ってしまったらドン引きさせちゃうな)
「僕は?」
「僕は……あんな人と出会ったことがないから、ちゃんとお礼がしたい……それだけです。深入りはしません。大丈夫です」
それを聞いた先生が安堵したように微笑んで、でも、もう一度念を押すように僕の瞳を射抜いた。
「絶対に危険な目に遭わないようにすること、いいね? 深月くんに何かあったら先生はとても悲しいから。深月くんは自暴自棄なところがあるから……ちゃんと自分を大切にするんだよ?」
ゆっくり頷いて、先生に笑顔を向けると、先生もいつものような三日月のように細められた瞳で笑みを返してくれた。
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