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59.猿芝居と化けの皮【Side:長谷川 将継】
『深月ちゃんのことだからなぁ。華月が入院してるなんて知ったら……絶対見舞いに行くって言い出すと思うぜ?』
十六夜華月を、葛西組の息が掛かった病院へ入院させたと連絡を受けた際、相良がそう言って電話口で吐息を落としたのを思い出す。
『ホントどんなに酷い目に遭わされてもさぁ、子供ってぇーのはそうおいそれと親を嫌いになれねぇもんなんだよ。親がその想いに報いる気があるかねぇかとか全然関係なく、……な?』
本来ならば、無条件に無償の愛を注がれるべきは子供の方で、子供は何も考えなくても親からそれを享受できる。だが、そうでない子供だって世の中には少なからず存在しているのだ……と、相良が溜め息混じりに声を低めた。
『ただただ愛して欲しくて必死になって……裏切られて傷ついて……。自分で無駄なことしてるって気が付いて親を見限れるようになるまではその繰り返しだ』
そうして、そう言う子供の方が与えられない愛情を求めたいみたいに親への執着を深める――。
日頃は飄々としているくせに、やけに実感と熱のこもった相良の声を聞きながら、彼も幼少期、親からの虐待に苦しんでいたことを知っている私は「そうだな」と返すことしか出来なかった。
だからこそ相良は〝親〟との盃の契りを重視する極道の世界へと足を踏み入れ、そこに居場所を求めたのだ。血の繋がりよりも強く結ばれているそちらの絆の方が、相良には分かりやすくて心地よかったらしい。
華月が警察病院などではなく、一般の病院へ入れてもらえたのは、相良が懇意にしている警察の内通者がそれなりに上層部の人間で、こちらが動きやすいよう便宜をはかってくれた結果らしい。
私は子供の頃、親から育児放棄されていた相良にほんのちょっと優しくしただけに過ぎない。なのにこいつはそれを一生ものの宝みたいに言って、私を助けてくれる。
――相良に頭が上がらないのは、正直私の方だ。
自分の過去と絡めながら、『深月ちゃんの場合は今まで母親から可愛がられていたと思っているみてぇだからな、尚更そういう思いが強いと思うぞ?』と補足してから相良が断言する。
『だからな、深月ちゃんは絶対に母親を見離せねぇはずなんだ』
その言葉に、私は電話先の彼には見えないのを承知で深くうなずいた。
「ああ、……そうだろうな」
『――で?』
「ん?」
『そん時お前はどうするつもりだ、長谷川よ』
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