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ふぅーと長く紫煙を吐き出す気配を携帯越しに感じながら、私はそんな相良に答えたのだ。
「下手したらあの義父と出会うかも知れないんだ。……反対するに決まってんだろ」
『んー、まぁそうなるわなぁ。……俺がお前の立場でもそうする』
そこまで言ってから、小さく吐息を落とした相良が、まるで仕切り直したいみたいに声を低める。
『けどな、長谷川。お前から見舞いを反対された場合、変なところで遠慮しちまうあの子の性格からして、どう動くと思う?』
「……どうしても見舞いに行きたいと思っていたとしても……私を説得しようとは考えず、一人でこっそり行こうとか考えるだろうな」
『さすが長谷川、可愛い深月ちゃんのこと、よく分かってるじゃねぇか』
そう。深月にはそういうところがあるのだ。
「バカか。んなの褒められても嬉しくねぇよ」
『だろ? ホント嬉しくねぇ困った特性だ。だから! 絶対に深月ちゃんから目ぇ離すなよ? 正直な話俺もこれ以上の面倒事は処理し切れねぇ。そこんトコ、よく肝に銘じとけ』
そう相良から釘を刺されていたからこそ、私は深月が置き忘れてきた洗濯物を取りに行くと妙にソワソワした様子で持ち掛けてきた時、もしや?と警戒することが出来たのだ。
洗濯機の方へ行ったはずの深月を玄関先で見つけた際、酷く落胆したくせに案外冷静に声を掛けられたのも、あらかじめそうなるかもしれないと予測していたからに他ならない。
相良が指摘した通り、深月は私に真意を語ることなく、自分で何とかしようとしたわけだ。
(あんな母親がそんなに大事かよ)
相良にそういうものだと聞かされていても、納得出来ないモヤモヤとした気持ちが燻ってしまったことを許して欲しい。
何より――。
私としては深月が本気で頼み込んできたら、彼のボディガードとして華月の病院へ付き添うのもやぶさかではないと考えていたのに、深月にそう思ってもらえなかったことが本当に悲しかったのだ。
そのことを懇々と言って聞かせたとき、深月は私に嫌われることを恐れていたみたいだ。
ホント、深月は腹が立つくらい自己肯定感が低い。
深月のことが好きだからこんな風に心配するのだと話したら、酷く安堵したようだったが、どこまでこちらの本気が伝わっているだろうか。
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