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クソ男はと言うと、とうとう涙まで流して周りの同情を買い始めていた。
「どんなに脅されても、俺は一家の家長として自分の家族を家に連れて帰る義務がある! その子の母親だって、可愛い息子がそばで看病してくれた方が、回復が早いはずなんだ! あんたらのせいで妻はあんなに弱ってしまったんだからな!? いい加減俺たち家族に付き纏うのはやめてくれないか!?」
あまりの猿芝居ぶりに『いつ俺たちがアンタらに付き纏ったよ?』と言いたくなったが、何だかバカらしくなってくる。
そうこうしている間に、警備員と警察官に、周りを取り囲まれてしまった。
「申し訳ありませんが、少しお話をうかがえますか?」
警察がその場にいる全員へ問いかけるようにそう声を発して――。
私たちは彼らに引き連れられて、別室へと通された。
全員が個室に案内された時点で、自分も調査対象だと思えばいいだろうに、クソヤローは全面的に自分は保護対象で、私たちこそが悪者だというスタンスを貫くつもりらしい。
個室へ入るなり、「聞いてください、私の息子がそいつらに!」と警察官の一人へ詰め寄った。
――その大事な息子を、吐いてしまうくらい精神的に追い詰めたのはどこのどいつだよ。
いけしゃあしゃあと深月を息子、息子と連呼するクソ男に、胃の腑がムカムカする。
相良に動きを制されていなかったら、私はヤツの胸ぐらを掴んで吊し上げていたかも知れない。
『――好きに言わせとけ。すぐ化けの皮が剥がれる』
私の身体にグッと力が入ったことを感じたんだろう。相良が私だけに聞こえるくらいの小声でそう耳打ちしてきて、私は辛うじて肩の力を抜くことが出来た。
「――なぁそこのアンタ。見たところカタギの人間じゃないんだろう? これ以上痛い腹を探られたくなかったら、オトモダチを説得してうちの子をこちらへ返すように言ってくれよ」
そこで、思い通りにならない警官と警備員らを交互に眺めてから、「アンタらもいつまで悠長に突っ立ってるつもりだ!? 話は大体分かっただろう? そいつらが俺から息子を奪おうとしてるんだよ! そこの男が抱えてるのは俺の息子だ! さっさと取り返せよ!」とか正気だろうか?
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