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いくらけし掛けても動こうとしない警備員らに焦れたように、クソヤローがこちらへ一歩足を踏み出したと同時。
相良が、私の腕の中で気を失ったままの深月に近付くと、彼が手にした鞄のポケットから、クレジットカードの半分ほどの大きさしかない小さなカード型の機器を取り出した。
「さて、深月クンのオトウサン。これが何だか分かりますか?」
言いながらニヤリと笑った相良が、「超小型の高性能ボイスレコーダーです」と手のひらの中の機器を皆に披露した。
「実は前にお宅の奥さんがこちらの友人宅へ乗り込んできた際、ちょっとしたトラブルがありましてね。そのことに凝りた私が、無事息子さんと再会できた際に、ちょいと彼の鞄に忍ばせさせて頂いたんですよ」
日頃〝俺〟でしゃべる相良が、〝私〟と自称してやたら丁寧な口調で説明をするのはやけに異様で、逆に背筋をゾクリと冷たいものが撫でる。
「息子さんのプライバシーを侵すつもりはありませんでしたのでね。こちらの友人に事情を話して、彼のスマホから遠隔操作で録音のオン・オフが出来るようにしてもらっていました」
確かに、相良からは深月が病室へ入ったら携帯を操作して、深月に忍ばせたボイスレコーダーの録音スイッチを入れるように言われていた。
録音されたものは後で一緒に聴こうと言われていたのだが、もしかしたら相良はあらかじめ録ったものを確認していたのかも知れない。
というのも、相良がやけに慣れた手つきで手の中の機器をチョイチョイッと操作して、自分のスマートフォンと無線接続をして再生ボタンを押したからだ。
前半は華月が深月に『母さんは深月に役に立って欲しいの。ちゃんと長谷川さんに、深月に値段をつけてもらえるように言ってくれる?』だの母親とは思えない酷い言葉を投げ掛けている音声で。
後半は私に助けを求めた深月に、『〝俺の深月〟って……まさか深月……この男と? 義父さんが仕込んでやったからか? 傑作だな!』と下卑た言葉で彼を愚弄している音声が入っていた。
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