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「深月、どっか行きたいとこないか? 結局週末、何だかんだで潰れちまったから」
病院を後にして、将継さんの車の中、家に帰る道中で、彼はハンドルを握りながら問いかけてきた。
(行きたいところ……)
「ぼ、僕、将継さんと、このままドライブ、したいです。海が見えるとこ、走って欲しいです……」
「了解」
将継さんが嬉しそうにハンドルを切る様に、僕はポーッと見惚れていたのだけれど、不意にポケットの中でスマートフォンが着信を告げる。
――番号はまた非通知だ。
「将継さん……また非通知から電話、来ました……先生かも……」
「出ろ。録音とスピーカーモード忘れずに」
将継さんの言葉に、僕は受話器マークをタップして、録音を押し、スピーカーモードにすると「……もしもし?」と電話に応対した。
『ミヅキクン、オカアサンガ、キズツイテモ、ヘイキデ、ハセガワト、イッショ? オトウサンモイタネ? イツカラ、ソンナニ、ハクジョウニ、ナッタノ? オカアサンヨリモ、ダイジナ、ハセガワガ、シンダラ、ドウスル? オトウサンミタイニ、ミヅキクンヲ、テニイレタラ、ユカイダロウナァ』
その声は先生ではなく、音声合成技術で作られていたもので、録音したとてまったくの無意味な機械音だった。
「機械音声かよ」
将継さんがチッと舌打ちしてハンドルを握る手に力を込めるのを見つめながら、僕は『母さんが傷付いたのに平気』、『義父さんのように僕を手に入れる』という音声に呆然としてしまう。
義父さんや母さんとのことは強くあろうと決心したはずなのに、心の奥底ではまだショックが燻っていたのだろうか。
追い討ちを掛けるように『将継さんが死ぬ』という言葉に、先程意識を失った時のように身体がかたかたと震え始める。
「深月? 大丈夫か!?」
「あ……ま、……」
「深月!?」
将継さんが焦って車を路肩に停め、シートベルトを外して僕の肩を揺すぶってくる。
「まさ……ぐ、……さ……」
(何で? 声が上手く出ない……?)
「深月!? おい、喋れねぇのか!?」
声が出ない代わりに、後から後から涙が溢れた。
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