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「心因性失声症ですね」
すぐに相良さんに電話を掛けた将継さんに連れられて先程の病院に戻って。
本来ならば、かかりつけの精神科がある場合、医師の紹介状なしに他の精神科を重複受診することはタブーだ。
けれど、相良さんが休日にも関わらず手配してくれた組の息が掛かった病院内の心療内科医に告げられた病名はそれだった。
「治るんですか!?」
将継さんさんの必死の言葉を耳に入れながら、僕はどこか他人事のようにそのやり取りを聞いていた。
「完全に失声しているわけではないので一時的なもののようですね。薬物を用いるまでもないでしょう。安静にして発声練習をすれば数日から一週間くらいで自然に治ると思います。出来るだけストレスを取り除いてあげてください」
***
「やっぱ、いきなり一朝一夕には強くはなれねぇか」
病院の個室の中、相良さんはベッドに腰掛けてふぅーと溜め息を吐いた。
将継さんは黙って僕の手をギュッと握ってくれている。
「あんなとち狂った久留米に義父や華月のことを言われてフラッシュバックしたんだろうな。おまけに長谷川が死ぬ……だ。深月ちゃんがショック受けるのも仕方ねぇか……」
「クソッ、久留米の野郎、今日も後をつけてやがったのかよ……もう明日、奴の病院に乗り込んじゃ駄目か!? 相良!」
「落ち着けや、長谷川。平日に奴の病院に物々しく突撃しても俺たちが不利になるだけだ。深月ちゃんの病院は組の息が掛かってねぇから協力者もいない。それに――」
「それに? 何があるってんだよ!」
「深月ちゃんの失声症のことまで長谷川のせいにされたらどうする? 脅しの案件がひとつ増えるだけだ。奴の思う壷だろうが。警察を内通させることが出来ないわけじゃない。だが、秘密裏に取っ捕まえて落とし前つけさせる。それが俺たちの目的だろ? 長谷川を殺すだのなんだのは深月ちゃんへの脅しに過ぎない」
「許せねぇ……俺をダシに深月を辛い目にばかり遭わせやがって……。俺が一緒にいるせいか……? 自分が許せねぇよ……深月にストレスかけてばかりじゃねぇか……」
「ち……が……ま、さ……」
(違う! 将継さん! 僕が弱いせいだから……一緒にいるせいだなんて言わないで……死ぬまでそばにいるって笑ってくれたじゃん……)
将継さんの服をギュッと掴んで頭を振るけれど、伝わって欲しい言葉が伝わってくれなくて、僕の瞳から涙がこぼれた。
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