61.狡猾な男?【Side:長谷川 将継】

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   深月(みづき)への言いようのない罪悪感と、相良(さがら)がそばに居てくれるという甘えからだろう。  感情のままに思わずそんな弱音を吐き捨てたら、深月が私の服を掴んで辿々(たどたど)しい口振りで首を振る。そうしながら、ほろほろと泣きながら私の弱さを否定してくれるのだ。  この()に及んでさらに深月へ心配を掛けて、こんな顔までさせてしまうとか……。私は一体何がしたいんだ!  ――すまん、深月。今のは言葉の綾だ。本心じゃない。  そう続けようとして、私は部屋の片隅に置かれた深月の鞄を見て、ハッとして口をつぐんだ。 (もしかして――)  あることに思い至った私は、深月に仕草でシーッとしてみせると、相良に深月の鞄へと目配せをする。  そうだ。普通に考えて、葛西組(かさいぐみ)の監視の目をすり抜けて久留米(くるめ)が私たちの傍に来られること自体おかしいじゃないか。  うちのポストへ変なモノが投函(とうかん)されてからはさらに警戒の目を強めてもらっているのだから尚更――。 (何故そんな簡単なことに気付けなかったんだ、私は)  急に静かになったことを不審に思われないよう「泣かせてごめん。けど……」と深月に語りかけながら、私はスマートフォンを取り出して素早く文字を打ち込んだ。 『もしかして……久留米に音、拾われてるんじゃないか?』
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