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62.奇襲【Side:十六夜 深月】
将継さんと相良さんのスマートフォンでの文章のやりとりに、僕はびっくりして涙も引っ込んでしまった。
――先生が盗聴している?
そこで将継さんが何か意味深に「深月、保険証使うから出してくれないか?」と問い掛けてきた。
(あ! 鞄の中を調べろってことか!)
僕はゴソゴソと鞄を漁るけれど、盗聴器らしきものは入っていない。けれど、もしかして!と財布を取り出す。
少ないカードを一枚一枚確認していると、ふと見たら病院の診察券の裏側に、何か薄い小指の爪くらいの小型のチップが固く貼りつけられていてゾッとした。
いつから貼られていたのだろうか?
タイミング的に考えられるとすると、武川さんと病院へ行った際に一応窓口に出した時だろう。
将継さんと初めて知り合ったと言ったあの日から、先生はこれを用意していたのだろうか。
(僕が将継さんと出会って興味を示したあの瞬間から、先生の中での僕への感情が何か変わってしまっていた……?)
僕はクイクイと将継さんの服を引っ張って診察券を見せる。すると彼は『ビンゴ』と言った様子で頷き、それを確認した相良さんもコクリと首を縦に下ろした。
幸い武川さんと病院へ行ってから鞄を持ち出していたのは、将継さんと外食へ出た時、彼の職場へ同行した日、石矢さんに保護された日、そして今日、母さんの見舞いに来た時だけ。
けれど、その中でも先程の将継さんとの『死ぬまで一緒』という会話は先生を怒らせるのには十分だったんだろう。だからあんな電話をかけてきたに違いない。
僕もスマートフォンを取り出して文章を打ち込む。
『将継さん、僕は将継さんのそばにずっといたいです。将継さんのせいで……だなんて思わないでください。出会えて幸せです』
文章を見せたら将継さんはどこか切なそうに眉根を寄せて僕の頭を優しく撫でてくれるので、思わず猫みたいに目を細めてしまう。
「まぁ、今は深月ちゃんの声が戻るまで何も行動に出ない方がいい。――このまま、いつも通りにな。また連絡する」
僕は思わず、先生が聴いているのなら――と、声にならない声で将継さんに呟いた。
「ま、……さ……す……き」
(先生、僕は絶対に将継さんのそばを離れない……)
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