62.奇襲【Side:十六夜 深月】

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***  数時間ほど病院に滞在して家に帰ると、将継(まさつぐ)さんはすぐに僕の鞄からスマートフォンだけを取り出した。  玄関を入ってすぐの渡り廊下に面している、使われていない六畳間の部屋へ鞄を置くと、そのまま僕をリビングへと(いざな)う。  座り込むなり将継さんは「深月(みづき)、大丈夫か?」と頭を撫でてくれるから。  僕はコクコクと頷いて、伝えたい言葉がたくさんある中から厳選してスマートフォンに文字を打ち込んだ。 『また僕が弱いせいです。将継さんのために強くなるって言ったのにごめんなさい』  それを見た将継さんは「深月はなんも悪くないから。早く喋れるように安静にしような? あー、明日っから仕事どうすっかな……こんな状態の深月連れてけないし……」と、頭を抱え込んだ。  と――。  そこで将継さんの携帯が着信を告げた。  彼は「悪い、深月。相良(さがら)だ。ちょっと出るな?」と、僕に断りを入れてから「どうした?」と電話に応じた。  僕はそわそわと将継さんの言葉の切れ端を耳に入れていると、彼は「なるほど……」と、突然深く頷くから。何か突破口が見つかったんだろうか……と淡く期待してしまう。  電話を切った将継さんはすぐに立ち上がり、リビングを出ていってしまうからオロオロしたのも束の間。置いてきたはずの鞄を手に戻ってきた。 「ま……さ……?」 (鞄を持ってきたらまた盗聴されるんじゃ?) 「深月、本当に大丈夫か? 声を失ったのは全部ヤツのせいだ……いま慰めてやるからな? 身体は平気か? マジで愛してるから……少しだけ触れていい?」  突然どうしたんだろう?と思いつつコクリと頷くと、将継さんが僕の首筋に吸い付いてくるからびっくりしてしまう。 「んっ……」  しかも、わざとちゅうちゅうと水音を響かせて。  どこか(いじ)るわけでもないのに、大袈裟に衣擦(きぬず)れの音を立てながら僕の衣服だけを乱してきた。 (先生に聴かせてる……?) 「もう絶対(ぜってぇ)離さねぇから……私の寝室に行こうな? たくさん可愛がってやる」  その言葉に、演技だとわかっていても僕の頬は真っ赤に染まってしまう。 (将継さん! 心臓に悪いです! てか、え!? 演技だよね!?)
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