63.行き場のない怒り【Side:長谷川 将継】

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63.行き場のない怒り【Side:長谷川 将継】

 薄っすらと開けた目に、真っ白な天井が映る。余りに白過ぎて目に痛い。我が家の天井はどこを見上げても柔らかな木目が続く板張りのはずだから、ここは(うち)じゃないな……。  ぼんやりとそんなことを思ったと同時。そう言えば私は仕事から帰って来て深月(みづき)に出迎えてもらったんじゃなかったか? という疑問が頭をもたげてきた……。  視線だけで周りを見回して、本来ならばすぐそばにいるはずの深月の姿が見えないことに、にわかに焦りを覚える。 「深、月……っ!」  愛しい恋人の名を呼んで身体を起こせば、身体にかけらていたらしい布団をがずるりと滑って、半分ほどだらしなくベッド下へ垂れ下がった。  急に起き上がったからだろうか。  後頭部が鼓動のリズムへ合わせたようにズキズキと(うず)いて、頭が割れるように痛んだ。その激痛に、私は思わず顔をしかめずにはいられない。 「()っ」  弱音なんて吐きたくないのに、思わずそんな情けない声が唇を割って出て、無意識に手を当てた額には包帯が巻かれているんだろう。ざらざらとした感触が指先に伝わってきた。  だがそのお陰で、私は意識を失う(こうなる)前、自分が何者かに襲われたことを思い出すことが出来た。  そう。確かあれは、仕事から帰宅してすぐのことだった――。
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