63.行き場のない怒り【Side:長谷川 将継】

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 自宅と深月(みづき)の警護に当たってくれていた葛西組(かさいぐみ)の面々をねぎらい、帰りの道すがらに買っておいた酒やつまみ、菓子類を手渡して、「明日もよろしく」と頼んだ。  少々やんちゃだが気のいい彼らがペコペコと頭を下げながら引き上げて行くのを見えなくなるまで見送ってから、私は家の玄関扉を引き開け、深月(みづき)にただいまを告げたのだ。  そんな私に、玄関先まで嬉しそうに出迎えに来てくれた深月が、たどたどしい口ぶりで懸命に「お帰りなさい」を言ってくれるのが可愛くて……。まるで子犬だな……なんて幸せに思いながら、ハクハクとよく動く愛らしい唇へと我慢出来ず口付けを落とした。  そこで背後から頭を思い切り殴られたのだ。  そのことを今更のようにハッキリと自覚した私は、一瞬にして青褪(あおざ)めた。 「深月……!」  あの後、深月はどうなったんだ!?  どうやら今、私は病院のベッドの上にいるらしい。  着替えも済ませられていて、水色の患者着姿。着ていたはずの作業服はすぐそこの壁面から突き出したフックに、ハンガーへ掛けられて吊るされていた。肩口に血がべったりと付着して赤黒く変色していところを見ると、それなりに出血したんだろう。  だが、ハッキリ言ってそんなことどうでもいい。  私は痛む頭に手を添えながらもベッドから降りようとしたのだけれど。  立ち上がったと同時、ふらついて盛大にベッドサイドに置かれていた椅子を蹴倒してしまった。
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