63.行き場のない怒り【Side:長谷川 将継】

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*** 「バカ! お前頭かち割られてんだぞ!? 急に動くとかダメに決まってんだろ!」  途端、ガラガラッと勢いよく引き戸が開いて、補佐役の千崎(せんざき)雄二(ゆうじ)を従えて、悪友の相良(さがら)京介(きょうすけ)が病室へ飛び込んできた。  ガッと相良の力強い腕に掴まれて、情けなくも座り込んでいた身体を引き上げられる。  急に動くなと言っておきながら、結構乱暴に立たせるんだな? とか思ったけれど、口には出さずにおいた。  それよりも今は――。 「なぁ相良、深月(みづき)は……っ!?」  相良に支えて立ち上がらせてもらっておきながら、ギュッと目の前の相良の胸倉を掴んで詰め寄れば、相良がふぃっと視線を逸らせる。  その、相良らしくない態度に、私の怒りは沸点に達した。 「まさか葛西組(かさいぐみ)ともあろうもんが、深月の居場所が掴めてねぇとかバカなこと言わねぇよな!?」  悪いのは葛西組でも、ましてや目の前の相良でもない。それは分かっていたけれど、深月がいないという現実が、から正常な判断能力を奪うのだ。 「――長谷川(はせがわ)さん、落ち着いて下さい」  ギュッと相良の胸倉を掴んだまま、持って行き場のない怒りに身体を震わせる私の手へそっと触れると、千崎さんが口を開いた。  私たちより(とお)は年かさの千崎さんの声音は、酷く静かで落ち着いていたけれど、有無を言わせぬ響きを持っていた。 「それ以上うちの若頭(カシラ)に無礼な真似をするようなら、例え長谷川さんと言えどもうちの(もん)らの手前、看過できません」
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