63.行き場のない怒り【Side:長谷川 将継】

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 スッと耳元に唇を寄せるようにして私にだけ聞える声音で(ささや)かれて、開いたままの扉の外へふと視線を転じれば、スーツ姿の男たちが数人、廊下へ控えているのが見えた。  それに気付いた私が相良(さがら)から手を離したのを確認するなり、千崎(せんざき)さんが小さく吐息を落として「恐れ入ります」と頭を下げる。  相良がそんな千崎さんに、「千崎、(わり)ぃけどお前も外へ出ててくんねぇかな? 俺、長谷川と(はら)割って話してぇんだわ」と吐息を落として。  千崎さんはそんな相良に何か言いたげに一瞬口を開きかけたけれど、「すぐそこにいます。何かあったら声をかけて下さい」と一礼して立ち去った。  スーツをビシッと着こなした千崎さんは、大人の色香の漂う美丈夫と言った様相で。所作のひとつひとつが物凄く洗練されていて物凄くかっこよく見えた。  私があの人みたいな男だったなら、深月(みづき)をさらわれずに済んだのだろうか?  考えても詮無い思いに囚われそうになった私を、相良がベッドへ戻るよう(うなが)した。
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