64.最初に好きって言うんだった【Side:十六夜 深月】

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64.最初に好きって言うんだった【Side:十六夜 深月】

「おはよう、深月(みづき)くん。よく眠れたかな? って言っても深夜だけどね」  まぶたを開けたと同時、聴き慣れた声が鼓膜を揺するから、声がする方に顔を(かたむ)けて視線を彷徨わせる。  僕はどこかもわからないベッドに寝そべっていて、そばのロッキングチェアにゆったりと腰掛けている先生に視線を捕らえられた。 「せ……ん……」 「手荒な真似をしてごめんね? 深月くん。身体は大丈夫? ここは先生の知り合いの別荘だから安心して? 邪魔は入らない。先生、深月くんと少し話がしたいんだ」  手荒な真似……と聞いて、意識を失う前の記憶が雪崩のように頭の中で再生され始める。僕は一番大切なことを思い出して、「ま、……さ」と、愛おしい人の名前を呟いていた。 「あぁ……またあの男の名前を口に出すんだ……。殺しておけばよかったかなぁ。深月くんがもう先生の名前しか呼べないように」 「や……だ、……ま、さ……かえ……て……」  ――将継(まさつぐ)さんのところへ帰して。  そう懇願したいのに、上手く喋られないことや、まだふわふわと力の入らない手足がもどかしい。  拘束されてはいないものの、身体を起こすことさえ出来ない現状に思わず唇を噛み締める。 「深月くんはどこで間違っちゃったのかな……確かに深月くんは僕のことを慕ってくれていたはずだ。それがどうしてあんな男に? ――身体の反応があったから?」  その言葉に僕はカッとなって「ち、が……!」と、動かない手足に力を込めて先生の瞳を見据えた。  確かに、将継さんにだけ身体の反応があって最初は驚いたし、戸惑いもした。  だけど――。  好きになったのは、〝好き〟という言葉をもらえたから、〝愛している〟という言葉をもらえたから。  だから僕も好きになったし、彼を愛した。  そこに身体の反応があったのは、運命のような出会いだったんじゃないかと、今では思っている。 「先生にしか心を開かなかった深月くんが、身体で簡単に懐柔されるような子だったなんて残念だよ。だったら――先生も同じ方法を取らせてもらうね?」  言って、先生がまた何かの液体が入った注射器を持って立ち上がり、ベッドのそばまで近付いてくるから、わずかに身体が震えた。 「せ……ん……せ……」
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