64.最初に好きって言うんだった【Side:十六夜 深月】

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「付き合いは先生との方がずーっと、ずーっと長い。だって十年だよ? きっと、深月(みづき)くんが先生を想ってくれていた時間も。だから見守ってきた。そこに足りなかったのが身体の反応なんだったら――」  言いながら、先生は僕の腕を押さえてチクリと注射針を刺し込んできた。痛みに眉をしかめてもお構い無し、ゆっくりと注射器の押し子――プランジャーに力を込められ、体内へ液体が浸透していく。  また眠らされるのだろうかとそわそわしている  と、僕の心の内を()み取ったのだろうか――先生は瞳を(すが)めて「眠らないよ?」と笑って見せた。  そのまま空になった注射針を腕から引き抜くと、ゆっくりとロッキングチェアに戻り、軽やかな所作で腰掛けて面白そうに僕を見つめてくる。 「すぐに効いてくるからね? これで、あんな男は忘れられる」 「……え……?」  先生はそこからはもう何も喋らずに、腕時計に視線を落とし、何かを待つみたいに肘掛けに頬杖をついて僕の様子を観察し始めた。  数分経った頃からだろうか――。  身体がぞわぞわと熱を持ち始め、ハッハッと呼吸が荒くなり、何か掻き立てられるような衝動が脳髄から全身に拡散されていくのを感じて。 「呼吸、乱れてきたかな? じゃあ、先生と試してみようか? 深月くん。本当にあの男にだけ身体が反応するのか。――ね?」  先生が立ち上がってベッドで荒い呼吸を繰り返す僕を組み敷いてくるからパニック状態になるけれど、手足が動かない。  その間に、先生は僕の脚の狭間に身体を割り込ませてきた。その手のひらが、ゆっくりと下肢の中心を撫で上げる。  ぶるっと身震いするけれど、やっぱりそこは何にも反応を示さなくて、ただただ熱が身体中を渦巻いて苦しい。 「ふーん……反応無しってわけ? 本当にあの男限定なの?」 「せ……せ、あ……つ、い……く……る……し」 「絶対に僕が()たせてみせる……あんな男限定なんてありえないからね?」  先生がニタァと見せたこともない笑顔を見せて、勢いよく僕の下衣を暴いてきた。
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