64.最初に好きって言うんだった【Side:十六夜 深月】

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***    「深月(みづき)くん、起きて」  肩を揺すぶられてぼんやりと瞳を開けると、先生がベッドのそばに膝をついている。  そのまま僕の頬をそっと撫でるから、わずかに背筋に嫌な汗が伝った。 「先生はこれから仕事に行ってくるからいい子で待ってるんだよ? 先生ずっと有給休暇使ってて……本当なら今日も深月くんについていたいんだけど、院長から呼び出しを受けていてね。呼び出しに応じなかったら不審がられる。普段通りにしなきゃいけないんだ。――長谷川(はせがわ)たちも、いずれここに辿り着くかも知れない。帰ってきたらまた場所を移そうね? 先生には熱心に慕ってくれる患者がたくさんいてね。行き場はあちこちある」 (将継(まさつぐ)さん……相良(さがら)さんがついていてくれてるよね……)  「帰ってくるまで、身体の準備をしていようね?」 (身体の……準備?)  言うなり先生は再び僕の腕に注射針を差し込んだ。まだ冷めていない身体が、再びじわじわと熱を帯び(さいな)まれていく。どうやら、この身体を熱くさせられる薬は長期型のようだ。  吐き出せない熱がずっと身体中を渦巻いて苦しくて仕方がないのに、下肢は反応を示さないからどうすることもできない。 「じゃあ深月くん、身体は力が入らないはずだから、拘束なんかしなくても逃げられないと思うけれど、ちゃんと待っていてね? 紙オムツを履かせておいたからトイレはそのまま済ませてね? もし今晩も反応がないなら――」  そこで、先生の手のひらが僕の臀部(でんぶ)をさらりと一撫でした。 「こっちを使おうね?」   ニタァッと笑って部屋から出て行った先生の後ろ姿を見つめながら、打たれた薬で荒い呼吸を繰り返しつつ身体が粟立つ。 (もし今晩も反応しなかったら僕は先生に……将継さん以外の人なんて、絶対に嫌だ!)  瞳が滲みそうになるのを、僕は強い決意で唇をギュッと噛み締めてこらえた。
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