64.最初に好きって言うんだった【Side:十六夜 深月】

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   耐えられなくなった僕は、全身の力を振り絞って、転がり落ちるようにベッドから降りた。床を這いつくばって匍匐(ほふく)前進で部屋の入口へ近付く。  壁を伝って扉を開けると、そのまま四つん這いで身体を前へ前へと進め続ける。少しでも、将継さんへ近付けるように。  広い別荘内、途中で階段から落下して足を強く打って苦痛に呻きもがいたけれど、なんとか玄関の前まで辿り着けた。  鍵を開けて四つん這いのまま見えた景色は辺り一面森の中だった。どうやら山中にある別荘地の集落なんだろう。遠目にいくつかの建物が見えるけれど、人通りどころか舗装もされていない道が続いている。  外はまだ寒い三月の中旬だというのに、上着もなしにこれだけ身体が熱いのは、盛られた薬のせいなのか、我武者羅に動いているせいなのか……。 (やっぱり逃げられないのかな……)  絶望感に(さいな)まれるけれど、将継さんの安否を確認したい……ただそれだけの気持ちで僕は地面を這いつくばるように一歩一歩前へ進んだ。階段から落ちた足は腫れていて、動かす度に痛む。 (将継さん……今どこにいるのかな? どうすれば連絡が取れるだろう……)  ――誰か、僕を将継さんのところへ連れて行って。
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