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医者からではなく、相良からそう言われて「ああ……」とつぶやいたら「自分の身体のことだぞ? もっと気にしろや」と凄まれてしまう。
「そうは言うがな、相良。お前だって自分の身体のことだったらそんなに頓着しないだろ? 確かに殴られた直後は眠りこけてて心配掛けちまったかもしんねぇけど……幸いこの通り意識も戻ってピンピンしてる。そんなに気にすることはないだろ?」
目の前の男とは旧知の仲だ。仕事柄相良が私なんかより酷い怪我を負ったことがあるのを私は知っているし、実際そんな相良を見舞ったことだってある。
そのたびに相良は今の私と似たようなことを言って、『ま、死なずに図太く生きてんだから堪えろや』と笑ったものだ。
それを示唆して、『だから私のコレも大目に見ろ』と言外に含めたら、即座に「バカか」と返された。
「お前と俺とじゃ立場が違うだろーが。少しは社員のことを考えて分を弁えろよ」
――社長なんだから、と付け加えられて、いや、それを言うならお前も若頭だろ? と思ったけれど、水掛け論になりそうなので言わずにおいた。
それより今は深月のことだ。
そう思って口を噤んだのだが。
「頭蓋骨のひびも問題なんですが、それよりも気になるのが、頭蓋骨内にほんの少し出血があることです」
「は?」
横合いから医師にCT画像を見せられて、後頭部の頭蓋骨内、脳との隙間に入り込むように三日月型に黒く映った辺りを指さされた私は、思わず間の抜けた声を上げた。
「頭痛は……酷くないですか?」
聞かれて、『しきりに後頭部がズキズキと痛むのは、頭を殴られてたんこぶでも出来たからだろうと思っていたが、ひょっとしてそれだけじゃないんだろうか?』と今更のように思い至った。
「まぁ殴られましたのでそれなりには痛んでますけど……腫れてるからじゃないんですか?」
私の答えを聞いて、医師が相良へ目配せして。相良はベッドサイドへ丸椅子を寄せると、ドカッと腰掛けた。
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