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08.思い出のケーキ【Side:長谷川 将継】
結局深月から食べたい料理のリクエストをもらえなかった私は、とことん家庭料理っぽいものを振る舞ってやろうと、筑前煮、豚のしょうが焼き、茶わん蒸し、ほうれん草のおかか和え、鮭のかす汁を作ろうと材料を買ってきて準備していた。
合鍵まで渡していると言うのに、『用事が終わったからこれからお邪魔してもいい?』という何とも深月らしい控えめな電話をもらって。
実際に深月が戻ってきたのはまだ十五時前だった。
さすがに夕飯には早すぎる時間だったので、煮込み系の筑前煮こそ火にかけていたけれど、しょうが焼きの下味をつける以外、他はまだ手を付けていなかった。
今日は天気が良かったので、洗濯物は庭へ干していた。
ついでに自分のモノだけでなく、客用の布団も日に当ててポカポカにしておいたのは、今夜も深月が泊ってくれるかもしれない、なんて期待していたから。
とりあえず布団を取り込もうと布団叩きで軽く叩いていた最中、チャイムの鳴る気配がして。
私は家の外周を回り込む形で玄関の方へ向かった。
果たして玄関前に深月の姿を見つけた私は、
「……ああ、深月。ちゃんと来られたね」
何の気なしにそう声を掛けたのだけれど。
てっきり私が家の中から姿を現すと思っていたんだろう。
横合いからヒョコッと顔を覗かせて声を掛けたからか、深月がチャイムに手を伸ばした姿勢のままビクッと身体を跳ねさせて固まって。
その姿が小動物みたいで可愛くて、私は思わず笑ってしまった。
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