65.頼りにしてる【Side:長谷川 将継】

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「お前を病院に放り込んでおいて(そば)にもついてねぇで計画の采配(さいはい)を振るっていたとか……薄情者(はくじょうもん)だと思うか?」  ククッと喉を鳴らして私の方を見遣る相良(さがら)に、「まさか」と私も不適な笑みを返す。 「むしろ、深月(みづき)を取り戻すための不在なら大歓迎だ。それに――」  そこでほんのちょっと間を空けると、私は少しだけ声を低めてつぶやいた。 「申し訳ないが私がそばに付いてて欲しいのは深月だけだから。――フッちまって悪いな、相良」  相良は私の言葉を聞いて大袈裟にお手上げのポーズを取ってみせると、 「んじゃ、引き続き俺はそのお姫様を救出するためにちぃーとばかり不在にするわ。長谷川よ、一人にされたからって泣くなよ?」  相良はニヤリと口の端を引き上げて私にウインクしてみせると、椅子から立ち上がって「じゃ、先生。コイツのこと頼んます」と、病室の片隅に控えた医者へ頭を下げてくれる。 「外へ(うち)(もん)残しとくから……何かあったら言え」  こちらを振り返らないまま、ひらひらと手を振りながら病室を出ていく相良に、私は聞えないのを承知で「頼りにしてるぞ、相良」とつぶやいた。
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