66.覚悟【Side:十六夜 深月】

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66.覚悟【Side:十六夜 深月】

「――でな、いま手配してるとこなんだ。長谷川(はせがわ)に伝えてもらっていいか? 千崎(せんざき)」 「承知しました。若頭(カシラ)。――では失礼します」  誰かの話し声が聴こえてゆっくりまぶたを開けると、また真っ白な天井が視界に飛び込んできた。けれど何だか焦点が定まらなくて、意識がぼんやりしている。 「――深月(みづき)ちゃん? 目ぇ開いた? わかるか?」  朦朧とする意識の中、その声が愛おしい将継(まさつぐ)さんのものではないということだけはわかって、どうして彼がそばにいないのだろうかと考えてみるけれど思考がまとまらない。 「将継さ……」  ぽろり、無意識にこぼれ落ちた言葉に、そばにいた男性――よく見たら相良(さがら)さんだ――は、肩を(すく)めて見せた。 「ごめんな? 深月ちゃん。愛しの長谷川じゃなくて。俺がわかるか?」 「相良さん……僕……」  身体を起こそうとしたけれど、まったく力が入らなくて、相良さんに顔を傾けることしか出来ないのがもどかしい。  腕に点滴が刺さっているから、ここが病院であることはわかった。  わかったけれど――。  だったらどうして尚更のこと将継さんがいないんだろう。将継さんだって病院に運ばれたはずだ。 (まさか……あのまままだ目覚めずに……) 「相良さん……将継さん、は? 僕、将継さんのところへ、行かないと――」 「あー、もう二人揃ってそれかよ? まったく。熱々でよろしいこった」  相良さんがふぅーと吐息を落として、呆れたように僕を見つめてくる。けれど、どうやら将継さんが無事に目覚めているらしい言葉に一気に肩の力が抜けた。 「深月ちゃんな。まだ薬抜けてねぇから起き上がれるようになるまで、もうちぃーと点滴しておネンネな? それから足も捻挫してる。全治二週間。あー、あと二、三日小便(しょんべん)すんのも(いて)ぇと思う」 「そ、そんなのどうでもいいです! 将継さんは!? 将継さんは大丈夫、なんですよね!?」 「声はすっかり戻ったみてぇだな。それだけでも長谷川が喜ぶわ。長谷川なら大丈夫だ。――まぁ……ちっと大丈夫じゃねぇけど、深月ちゃん遺して死ぬタマじゃねぇから安心しろな?」 (将継さん……怪我が重いの? 今すぐ会えないの?)
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