66.覚悟【Side:十六夜 深月】

2/5
前へ
/410ページ
次へ
深月(みづき)ちゃんな、善良な一般市民サマに通報されちまったから長谷川(はせがわ)と同じ病院じゃねぇんだわ。俺がお姫様抱っこして連れてってもいいんだが長谷川に殺される」  そういえば、僕は意識を失う直前、見ず知らずの女性に電話を借りて――。 「長谷川が殴られてぶっ倒れてた時にアイツのスマホ俺が預かってたままでさ。深月ちゃんからの電話、折り返したけどもう運ばれてる最中で咄嗟に(うち)の病院に運べなくてな」  あの女性がそんなことまでしてくれたのかと思うと、お礼が言えないことが無念で仕方がない。 (僕を助けてくれてありがとうございます……)  「――で、いま長谷川の病院へ深月ちゃん移送する手配してんだわ。だから、愛の抱擁はもうちぃーと辛抱しておネンネしような? 起き上がれねぇだろ?」  今すぐ将継(まさつぐ)さんの元へ行きたいのに、自由が効かない身体と痛む足がもどかしい。  相良(さがら)さんが僕の乱れた掛け布団を綺麗に掛け直してくれるから、何だか優しさに甘えて縋り付きたくなってしまう。  動かない身体を引きずってでも、今すぐ将継さんに会わせて欲しいと懇願したい。  けれど、さすがにそれはワガママすぎるだろうから、せめてもの気持ちで必死に将継さんの安否を問わずにはいられなくて――。 「相良さん! 将継さん……ちっと大丈夫じゃないって、どういうこと、ですか!? 大丈夫なんですよね!?」 「あー、かなり激しく殴られててな。頭の骨に少しヒビ入ってんだわ。んで、脳内出血もしてて最悪手術が必要になる。――でも、ま。バカみてぇに深月ちゃん深月ちゃんうるせぇからパッと見だけ元気過ぎて手ぇ焼いててな」 「……手術……」  僅かに声を震わせると、相良さんが僕を安心させるみたいにぽんっと肩に手を置いて「心配しなくても長谷川が死ぬ時は(ときゃあ)深月ちゃんの上で腹上死だ」なんてククッと笑うから。 「……腹上死って、何ですか?」 「お楽しみの最中に死ぬってこと」 「……お楽しみって何ですか?」  小首を傾げたら相良さんはぶはっと吹き出して「ったく。長谷川もメロメロになるわけか。ほら、寝ろ寝ろ。また目覚める頃にはアイツの病院に着いてるから。――な?」と片目を閉じて見せた。  僕はよくわからなかったけれど、相良さんの言葉に従えば何もかも上手くいくような心強さを感じて。  静かに頷くとそっと目を閉じて、怠い身体を持て余しながらも、目が覚めたら将継さんに会えるんだ……という希望に胸が満ちた。
/410ページ

最初のコメントを投稿しよう!

738人が本棚に入れています
本棚に追加