66.覚悟【Side:十六夜 深月】

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*** 「立てるか? ほら、俺の肩に掴まれな?」  次に目が覚めた時には、僕は本当にまた違う病院の個室に入っていた。先刻(さっき)と同じように相良(さがら)さんが待っていて「おはよう」と声を掛けてくれて。  まだ若干ふらついてもいるし、捻挫した足も痛むけれど、一刻も早く将継(まさつぐ)さんに会いたいという気持ちを汲んでくれた相良さんが、隣の個室にいるらしい将継さんの病室まで肩を貸してくれた。  将継さんは絶対安静でベッドから出られないようで、そのことが僕の不安を掻き立ててやまない。  ぴょこぴょこと歩きながら将継さんの病室の前に辿り着いて、(はや)る気持ちを抑えながら引き戸に手を掛けると、相良さんが「深月(みづき)ちゃん」と僕の名前を呼んだ。 「はい?」 「あんな、深月ちゃんが久留米(くるめ)に拉致られてやられた仕打ち、長谷川(はせがわ)にはもう全部伝えてある。お互い辛くなるから何も喋んなくて大丈夫だからな?」  コクリと頷くと、相良さんが僕の代わりに引き戸を引いてくれて、「長谷川、待たせたな。お姫様のご帰還だ」と言いながら僕の背中をぽんっと叩いた。 「深月! ……()っ」  緩くリクライニングされたベッドの上で、頭に包帯を巻いた状態で寝そべっていた将継さんが起き上がろうとしたのを、相良さんが冷たい声音で「長谷川」と制した。 「何度言わせんだ? お前はベッドから降りんなっつってんだろ?」 「将継さん……」  痛む足を引きずって、よたよたと将継さんのベッドに近付くと、すぐにギュッと抱きしめられる。  何か僕の形を確かめるように背中をがさがさと掻き乱されるから、僕も将継さんにギュッと抱きついて、その存在を噛み締めた。 「深月、私が守れなかったせいで辛い思いさせてごめんな? ……戻ってきてくれて本当に良かった……」  僕は将継さんの腕の中、ぶんぶんっとかぶりを振って、彼にしがみつく腕に力を込める。 「将継さん……目覚めてくれて、ありがとうございます……」 「相良、十秒目ぇ閉じててくれるか?」 「あ?」 「え?」  相良さんと僕が間の抜けた声を出した瞬間には、もう将継さんが噛み付くように僕の唇を塞いでいて――。 「十秒だかんな? 耳も塞いどきまーす」  相良さんのそんな愉快げな言葉を耳に入れながら、静かにまぶたを閉じたら、もう僕の世界には将継さんしかいなくなっていた。
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