67.勝手に動くのだけは無しだ【Side:長谷川 将継】

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「……けど、私が動けない間に深月(みづき)が勝手に動くのだけは無しだ」  じっと探るように深月の目を見つめる私の視線に、腕の中の彼が小さく息を呑んだのが分かった。 「……分かりました。僕、勝手に将継(まさつぐ)さんから離れたりしません。だから……えっと、安心してください」  ややして、深月は私の言葉を理解したみたいにハッキリとそう答えてくれてから、ギュッと私の手を握る。そのことに、私は少しだけ強張(こわば)っていた肩の力を抜いた。 「正直な話、深月をこんな酷い目に遭わされて黙ってるなんて私には無理だ。だから先生にはやったことの責任をしっかり取ってもらいたいと考えてる。――けどまぁ見ての通り今の私はこのザマだからな、相良(さがら)にはだいぶ助けてもらうことになると思う。でも……私のために相良の手を汚させる気はさらさらねぇんだ。あいつのことだから犯罪めいたことも(いと)わねぇくらいの勢いだと思うけど、そこだけは全力で阻止するつもりでいるから。――深月にも、理解しといて欲しい」  相良はことあるごとに久留米(くるめ)には私や深月への暴行なんかの落とし前をつけさせてやるみたいな発言をする。それは法を介さない制裁(リンチ)を意味しているはずだ。恐らくそういうことは、相良が身を置く世界では珍しいことじゃないんだろう。けど、私は自分のために相良がそういうことをするのだけはどうあっても止めたいのだ。  相良にさせるくらいなら私が、と思ってしまう程度には――。
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