67.勝手に動くのだけは無しだ【Side:長谷川 将継】

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「それは……将継(まさつぐ)さんが相良(さがら)さんや僕の代わりに危ないことをするってことです……か?」  深月(みづき)が不安そうに私の手をぎゅっと握ってくるから。私は深月に心のうちを見透かされた気がしてドキッとしつつも、「そんなわけないだろう?」と微笑んでみせた。  深月が心の奥、あんな目に遭わされてでさえも世話になった先生を断罪することにためらいを感じていることは分かっている。先の覚悟をするという深月のセリフは、そこを乗り越えるという意味に違いないが、わざわざ口に出すということは、深月の中にまだ迷いがあるということだ。  深月のことだから久留米(くるめ)が自分の心の()り所になってくれていた時のことを思って、そんな先生を他の患者たちから奪ってもいいんだろうか? とか思ったりしてるんだろう。  そんな優しい深月に、直接手を下させるようなことは死んでもしたくないし、もっと言えば今から私たちがすることで、深月に罪悪感を感じたりすることがなるべく少なくて済むようにしてやりたいのだ。  だからこそあえて言わないといけない、と思った。 「正直なトコ、深月は久留米を〝先生〟じゃなくすことに迷いがあったりするんだろう?」 「えっ?」 「さっきの覚悟ってそう言う意味だよな?」  深月が私の言葉に驚いたように瞳を見開いたのは図星を言い当てられたからに違いない。 「……だとしたら、こう考えてみてくれないか? ――久留米が今のままだと、また前みたいなことが起こりかねない。そんな状態じゃ、私は深月と安心して一緒にいられないんだ。私はね、深月。深月にはもう二度とあんな酷い目に遭って欲しくないんだよ」
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