08.思い出のケーキ【Side:長谷川 将継】

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「ごめん、ごめん。庭で洗濯物なんかを取り込んでいる最中だったもんでね」  庭に面した広縁(ひろえん)から、沓脱石(くつぬぎいし)の上に置いてあったサンダル姿のまま、布団叩きを手に肩をすくめて見せると、深月(みづき)が納得したようにうなずいた。 「悪いけどさ、鍵開けて中に入っててくれるかい?」  合鍵は渡してあったから。  何の気なしにそう声を掛けたら、深月が私を見詰める視線に戸惑いをにじませる。 「ほら、私はこのままじゃアレだから……庭から、ね?」  自分もちゃんと家の中に戻るよ?と言外に含ませたらやっと、深月がホッとしたように肩の力を抜いたのが分かった。  一晩明かした家だ。  そんなに気を遣わなくてもいいのに……と思ったけれど、それが深月らしさなんだと思ったら、そういう奥ゆかしさも含めて愛らしく思えたから不思議だ。  私の視線に耐え切れなくなったみたいに恐る恐ると言った調子で渡していた合鍵を取り出して鍵穴へ差し込む深月をしっかり確認して、私は庭の方へと戻った。  洗濯物も布団も、全て取り込み終わっていたわけではないけれど、きっとあの調子だと玄関を開けて中に入ったところで、深月は立ち往生をするに違いない。  そう思った私は、沓脱石の上にサンダルを雑に脱ぎ捨てると、いそいそと廊下を歩いて玄関へ向かったのだけれど。  案の定というべきか。  所在なく土間に突っ立ったままの深月と目が合って、私は思わず想像通りの彼の様にクスッと笑ってしまった。
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